【4-12】舌戦 上

【第4章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428756334954

【地図】 航跡 ヴァナヘイム国編

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

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「あれが新しい総司令官か」


「ずいぶんとまぁ若い将軍だな」


「思ったよりも小柄な男だな」


 水の庭園での任命式を終えると、アルベルト=ミーミルは小雨のなか、王都・ノーアトゥーンの城塞部へ向かった。


 空からの雨滴と、下士官・兵たちからの好奇の眼差しを浴びながら、西の塔にたどり着く。この王都には、東西2対の優美な塔が屹立きつりつしている。


 副官に促されるままに、細長い建物の足元の門をくぐる。総司令部の置かれた西の塔最上階に向けて、ミーミルは螺旋状の階段を上っていった。


 数段おきに穿うがたれた窓は、採光と銃撃のために設けられたものである。そこから見える空には、灰色の雲が広がっていたが、2カ月前までのような飛雪をもたらす分厚いものではない。


 階が上がるたびに、窓からの景色は眺望が利くものになっていく。最後の踊り場からは、城壁の上で守りに備える兵たちの様子に加え、その前面に広がる山と渓谷の織りなす複雑な地形がよく見えた。


 ミーミルはそれらの先に視線を向けて立ち止まった。


 ここから70キロ南の地点には、この国を併呑へいどんすべく、帝国軍の先方が布陣しているはずだ。その手前、必死に防衛ラインを築いているトリルハイム城塞までは、約50キロしかない。


 しかも、この王都から同城塞までは、山間を街道と鉄道が続くだけであった。左右の地形こそ複雑だが、整備された道路と線路を遮るものはないのである。



 西の塔・最上階の総司令部に入ると、ミーミルは各軍の指揮官たちに対し、所信の表明を行った。


 端的な挨拶と方針説明が終わると、通例どおり、将軍たちからの質疑が始まった。


 最初に新司令官を問いただしたのは、左翼第1師団長・アルヴァ=オーズ中将であった。

「……つまり、総司令官どのの目標は、帝国軍の撃滅ではなく、引き分けに持ち込むというところなのですな」


「ああそうだ。我が軍は20万にも及ぶ死傷者を出し、逃亡兵も後を絶たない。前方のトリルハイム城塞防御線を突破されれば、この王都まで一足飛びに衝かれてしまうほど追い詰められている。どんなに上手くことが運んだとしても、形成挽回ばんかいは難しいだろう」


 侮蔑の表情を抑えることもせずに、オーズは猛将の渾名あだなそのままに、上官への詰問を継続する。

「何を弱気な。必勝の信念なくして、どうして総司令官など務まりましょうか」


「帝国軍は、信念で勝てるほど甘くはない」


「いえ!総司令官以下、将兵が一丸となって信念を持ち得れば、必ず戦には勝てます。我らは、その信念を持って戦って参りました」


「それでは聞くが、どうしてけいらは『必勝の信念』とやらを持ちながら、ここまで帝国軍に追い詰められたのか」


「……」

 オーズは二の句が継げず、赤面したまま緘黙かんもくする。


 新任総司令官のふてぶてしい言動に、将軍たちは思わず語気を荒げ立ち上がった。しかし、ミーミルのそうした態度は、改まる様子も見られない。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


総司令官って大変だと思われた方、

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【予 告】

次回、「舌戦 下」お楽しみに。


室内にあふれた声に押されるように、ベルマン中将がいぶかしげな表情をうかべ、言葉を続ける。

「まさか、さらなる徴兵を領民に強いるつもりではありますまいな」


「徴兵をしようにも、もうこの国には、老人と子どもしかいない。別途考えがあるから安心いたせ」

ミーミルは、目を閉じたまま身じろぎもせず、己の方針の一端を口にした。

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