【8-22】敗走 上

【第8章 登場人物】

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【イメージ図】イエロヴェリル平原の戦い2

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 セラ=レイス一党は、単隊で戦場を落ちのびていた。


 レディ・アトロン、レイス両隊は、持てる火力をヴァ軍の包囲壁の1カ所に叩きつけた。そのおかげで穿うがたれた穴から、レイス隊だけ廃村の外へと逃げおおせたのである。


 彼らは、帝国中軍との合流を目指し、ひたすら南へ向かった。


 だが、誰しもが、連戦による疲労の極み、怪我による体力の限界が迫っていた。レイスの目の前で、次々と兵士たちが膝をつき、倒れ、動けなくなっていく。


 とりわけ、アトロン連隊より託された負傷兵の落伍らくご率はすこぶる高かったが、レイス隊による彼らへの対応は冷淡であった。


 もっとも、歩ける者にも、落伍者を介抱する余力は、残っていなかったのだ。


 動けなくなった負傷兵は、比較的健常な将兵によって水や食料を奪われると、容赦なくその場に捨てられたのである。


「アトロン大佐との約束、やはり守れなかっただろう」


「……はじめから、そのつもりでした」


 紅髪の上官の言葉に、黒髪の副官は素っ気なく応じた。彼らの駆る馬ですら、次第に歩みがおぼつかなくなってきている。


【8-18】時間の流れ 中

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 先行して落ちのびさせた砲兵たちは、複数の6.5センチ野砲と弾薬車の移送に手を焼き、レイス党本隊に追いつかれていた。


 道なき逃走路である。むろん小川にも満足な橋など架かっていない。


 炎熱により、水流はなくなっていたものの、ぬかるみは残っていた。そこへ、車輪がはまる度に立ち往生する。


 おまけに、月明りもない真夜中である。足を捕られた砲車は、容易に抜け出すことができない。


 レイスは歩みを止めた馬を捨て、自ら野砲の牽引けんいんを手伝った。


 見かねて、味方の歩兵たちも、紅毛の指揮官とともに手を貸していく。


 その様子を見届けると、座りこんでいた砲兵たちは、安心したように力尽きていった。



 レイス隊一行は、日付が改まっても休むことなく後退を続けた。


 夜半過ぎても歩き続けた結果、ようやく帝国東征軍・本軍の勢力下に逃げ込むことができたのである。


 戦闘で倒れた者だけでなく、この道中に落伍した者も数知れず、レイス麾下500の兵卒は、120までその数を減らしていた。




 帝国中軍では、敗残兵のために篝火かがりびをあちこちに焚いていた。


 老将・ズフタフ=アトロンは、物資欠乏の状況にもかかわらず、ありったけの一番水や二番水に携帯糧食、さらには炭酸水まで配るよう命じていた。


 また、救護班だけではとても手が足りないと予測し、周辺の街や村からも、看護の担い手の供出を願い出ていた。


 そのようなところに、レイス隊以下、右翼の敗残兵たちがよろめきながらたどり着いたのである。


 帝国中軍は、深夜2時過ぎとは思えないほどのにぎわいぶりとなった。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


敗走は体力的にも精神的にも、本当につらい……そう思われた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「敗走 中」お楽しみに。


薄れゆく視界に、紅髪・翠目あおめの少女が映ったのは、レイスが炭酸水を何度目か口元に運ぼうとした時だった。


 ――エイ……ネ……。

瓶は彼の右手を滑り、音もなく地面に転がった。

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