【12-33】花びら ④《第12章終》
【第12章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429613956558
====================
「では、既に手を打たれていたのですね」
「……惜しい男だったが仕方がない。こんなところで講和など結ばれては困るからな」
帝国軍総司令部付き参謀部天幕――キイルタ=トラフが、紅茶ポット――ベリーク産陶器――にお湯を注いでいる。だが、彼女の問いかけに対する、紅髪の上官の声は抑揚を欠いた。
ヒットマンを用いて、ヴァナヘイム国・軍務省次官を始末した。
陰惨な行為に手を染めたことについて、セラ=レイスは不本意極まりなかったようだ。その様子や口ぶりから、紅髪の上官の気持ちが、黒髪の副官には手に取るように分かる。
こういう時の上官は、珈琲(砂糖・ミルク入り)ではなく紅茶を好むことも、彼女は心得ていた。そもそも、彼は下戸なので、やけ酒は飲めない。
ヴァナヘイム国軍務省次官・ケント=クヴァシル中将――。
アルベルト=ミーミルの才能にいち早く気付き、彼が力を発揮できるようお膳立てした男。
骨肉の争いを繰り広げてきた隣国ブレギアに同盟の話を持ちかけ、その締結に成功。そして、食糧・弾薬不足に陥るほど、帝国軍の輸送計画を散々に狂わせた男――。
レイス・トラフ主従は、先の撤退戦では上官たるレディ・アトロンを失い、自分たちも九死に一生を得た。
その後も各所で、帝国は敗北を重ねている。
軍務次官は、それらの元凶ともいえる存在である。
ところが困ったことに、レイスはこの男に対して、帝国上層部の人間よりも親近感がわくようである。それはトラフも同様であった。
自己の栄達のことしか頭にない帝国貴族将校に対して、軍務省次官は滅私の姿勢を貫いた。誤解の末、民衆から「売国奴」呼ばわれされても、ブレずにあるべき姿を目指そうとした。
「軍務省次官・ケント=クヴァシルは、相当に腕が立つようでしたね。士官学校時代、剣技や射撃の成績は、常にトップクラスだったとか」
そんな男が、突然汽車通勤を改め、専用馬車を用いはじめたため、暗殺実行班は戸惑ったようだった。
3等列車であれば、駅でも窓越しでも、狙撃機会はいくらでもあったが、防弾加工を施した専用馬車では、そうもいかなかった。下手を打てば、護衛兵とともに逆撃を被りかねない。
結局、実行班が得意とする遠距離射殺を諦め、
「お前の射撃も、そう悪い筋ではないと思うがな」
珍しく上官は部下を褒めながら、紅茶入りのカップを受け取った。キイルタであれば、遠距離射殺ができたはずだと、レイスは副官の腕を疑っていないようだ。
【6-14】囮作戦 1 引き金
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700427794258776
トラフは内心の
「……よく手配できましたね」
近接殺傷とはいえ、それほどの男を始末できる刺客を。
「俺たちの戦闘継続を希望する連中は、観覧席にたくさんいるのさ」
レイスは、左右の
【12-16】 青空と暗室
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817139555171885912
季節は確実に移りつつある。あれほど帝国軍を悩ませた酷暑も急速に遠のき、ここ数日の夕刻には、温かい飲み物が好まれる気温になっていた。
琥珀色の液体を口に含み、上官は顔をしかめる。
時間配分を間違えて渋くなってしまったのだろうか――トラフも己のカップを口につける。
いつもどおりの完璧な
まごつく副官に構うことなく、レイスはポツリと言葉を漏らす。
「惜しいなぁ……」
第12章 完
※第13章に続きます。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
軍務次官を処分した帝国は、次にどのような手を打って来るのか気になる方、
残されたミーミルが気になる方、
ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
クヴァシルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回からは、第13章「内憂」が始まります。
ヴァナヘイム軍では、アルベルト=ミーミル麾下、正規兵と特務兵の溝がより深刻ものに。
帝国軍では、セラ=レイスによる反撃の
お楽しみに!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます