【6-14】囮作戦 1 引き金

【第6章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428954319651

【組織図】帝国東征軍(略図)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927862185728682

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 6月17日、麾下第3連隊からの再三にわたる出撃許可願を受けて、帝国軍右翼の統括指揮官たるエイグン=ビレー中将は、根負けした……わけではない。


 ブレギア産の愛馬と引き換えに、レディ・アトロンは、中将から出撃許可を手に入れたのだった。


【6-3】レディ・アトロン 下

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927860288841573



 突如、献上された黒毛の極上馬を前に、鼻息を荒くしたビレーは、馬の持ち主からの要請を認めるか否か逡巡しゅんじゅんした。


 悩んだ末、物欲が勝利した。この中将の馬好きは、病的なものに属するのかもしれない。


 ただし、右翼全軍といった大規模作戦ではなく、あくまでもアトロン連隊に限っての威力偵察ということで、ビレーは、しぶしぶ出撃を許したのであった。


 結果として失敗したとしても、アトロンの馬鹿娘が暴走しただけのことであり、よしんば成功した場合は、己の手柄にできる。


 そうした打算は決して楽観できるものでないことは、この吝嗇家りんしょくかで馬狂いの中将もわきまえている。下手を打てば、左翼のブレゴン派閥に後れを取ることになりかねないのだ。


 しかし、ビレーは黒毛の名馬という誘惑に負けた。彼の胸先三寸むなさきさんずんにおいて、ブレギア産の極上馬は、派閥抗争のリスクを上回った。


 もちろん、レディ・アトロンが右翼全軍はおろか、それ以上の作戦構想を秘めていることなど、この時、彼は気が付いていない。




 快勝だった。


 面白いような勝利であった。


 低俗な挑発だったが、腹踊りの効果はてき面であった。誘いに乗ったヴァナヘイム軍は、セラ=レイス少佐の予想したとおり、必要以上に追撃を行った。


 敵の進路を推測し、その先を囲い込むように味方を配置する。


 それも、地表のちょっとした隆起や灌木かんぼくを上手く利用し、腹這はらばいになって小銃の狙いを定める――。


 レイスの配置した陣形は見事に当たった。目をつむって発砲しても外さぬほど、敵は密集して突入して来たのである。


 結果として、レイス・アトロン両軍が待ち構えている地点まで飛び込み、クロスファイアポイントで次々と撃ち倒されていく。



 腹這になっていたキイルタ=トラフは、窮屈な胸部を解放するかのように上体をわずかに起こした。そして、その灰色の瞳を細めて、前方を注視する。


 敵の将官と思しき姿を視界にとらえたからだ。馬上の袖には、金の線が数本見える。混乱した味方の立て直しに、奔走しているようだ。


 トラフは、岩陰に身を隠したまま、ライフルの角度をわずかに上げた。



 彼女は、この小銃の癖を知り抜いている。



 銃口を照準からわずかばかり左に逸らすと、静かに引き金を引いた。





【作者からのお願い】

裸踊りの挑発から戦闘までの流れを、帝国側から描いていきます。

ヴァナヘイム軍からの視点は、こちらを思い出してください。


【4-19】裸踊り ⑤

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927860436060758



この先も「航跡」は続いていきます。


作戦のため、帝国軍のためなら、愛馬を手放すレディ・アトロンの心意気に感心された方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「囮作戦 2 花模様」お楽しみに。 

囮作戦による戦闘がクライマックスを迎えます!!


フェドラー大隊の中央は、いつの間にか撃ちすくめられ、備えが薄くなっていた。正面のヴァナヘイム軍は、そこへ最後の突撃を仕掛けてきたのである。


あわや、大隊長戦死かと、レイスたちが顔をしかめた時だった。


白兵突撃をかけたヴァ軍の横面に、騎兵ごと体当たりした帝国軍の一団が現れる。

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