【4-19】裸踊り ⑤ 《第4章 終》
【第4章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428756334954
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「分かってくれたなら、ダリアン准将の兵をすぐに引き揚げさせ、皆で谷底を固めてくれ」
「……」
アルヴァ=オーズ中将は、すっかり下を向いてしまっていた。そして、総司令官からの命令に従うような素振りを見せたときだった。
今度は、猛将の脇に立つフィリップ=ブリリオート少将が、即座には肯んじない旨の発言を始めたのである。
地形の説明をいただいた総司令官へ謝意を示したあと、少将は言う。
「谷底を固めることについて異論はございません。ダリアン准将が前面の敵を一掃して帰りましたら、合流して下に向かいます」
「……分からんか」
説明するのが
「帝国兵士の背後を見てみろ」
片手で望遠鏡を受け取った少将に、司令官は説明を続ける。
「帝国軍が……あのズフタフ=アトロン老将が、正面から撃破できるような陣を敷いていると思うか」
不承不承といった様子で、ブリリオートは望遠鏡を右目に当てる。オーズもローズルより双眼鏡を受け取ると、戦場を注視した。
「……!」
「これは……」
両者は歴戦の勇将である。
裸になって踊っている帝国兵士たちに向けて、ダリアン隊が駆け下りていく。そのはるか後方、荒涼とした土地の
「馬鹿な、事前の偵察では背後に敵の備えなど……」
力なくブリリオートは口をつぐんだ。
「オーズ中将、ダリアン准将へ向けて撤退命令を出したまえ」
この若造が言うことは道理のようだ。だが、ついこの間まで、将官クラスの軍議に参加することも許されなかった青二才が、上官として指示を出してくるなど、両将軍にすれば片腹痛いだけだった。
ダリアン准将も、ここまで帝国相手に手堅い戦術をみせてきた
直属の兵馬だけであろうと、敵に仕掛けがあろうと、そうやすやすとやられることはあるまい――両将とも、楽観的かつ希望的観測に逃げることで、若造からの言葉に耳をふさごうとしたようだった。
丘のふもとで帝国先遣部隊とダリアン隊が衝突した。
油断しきっていた帝国兵士は、なすすべもなく蹴散らされていく。
帝国軍は、なだれをうって崩れ始め、勢いに乗った准将の騎兵部隊が猛追撃を始める。
オーズが思わず拳を振り上げ、ミーミルもローズルから別の双眼鏡を借り、両目に当てた時だった。
窪地からこちらに向けて、一斉に射撃が始まった。
ヴァナヘイム軍が裸踊りに目を奪われている隙に、帝国軍は大地の陥没している箇所や
山腹に立つミーミルたちの耳もとへ、ワンテンポ遅れて銃声がかすかに届いた。
ダリアン准将の部隊は、帝国軍の銃弾の雨を正面から受け止める形になった。
狂奔する馬、勢いよく馬上から地面へ投げ出される兵、急停止しようとして馬から落ち、後方からきた味方騎兵に踏みつぶされる下士官……またたく間にダリアン隊は大混乱を起こした。
「……撤退命令を」
「……」
退却命令へ承服の意を示すように、ブリリオートは望遠鏡を短くたたむと、両手で総司令官に返却した。その手はわずかに震えていた。
ところが、オーズは戦場に視線を送ったまま、腹の底から声をひねり出す。
「……武人の
巨漢の中将は、上官を押しのけて愛馬の方へ進もうとする。その様子は、ブリリオート以下、部下はおろか兵すらも残し、単騎で戦場に向かうかのように思われた。
否、数多の戦場を共に駆け抜けてきた彼の将兵たちは、指揮官を見殺しにするつもりなどさらさらないようだ。猛将の気概に早くも共鳴し始めている。
「アルヴァ=オーズッ!」
たまらず、ミーミルは、腰に下げていた剣を抜き、歴戦の猛将の背に切っ先を向けた。
先の水の庭園における任官式で、国王から下賜された宝剣である。
「私は、王より総司令官に任じられた。私の命令はすなわち、王の命令……それに逆らうつもりか」
オーズはゆっくりと首だけを回らす。
「……このワシを脅すとはいい度胸だ」
肩越しに鈍く光る剣先など、気にするそぶりも見せず、猛将は口をゆがめて笑った。
第4章 完
※第5章に続きます。
【作者からのお願い】
第5章「はずれ者」は、バーラス領の少女・ソルにフォーカスしていきます。
さかのぼること2年、帝国・ヴァナヘイム間の風雲急を告げるなか、少女の小さな冒険にお付き合いください。
この先も「航跡」は続いていきます。
ヴァナヘイム国にも面白い人材がいるではないかと感じてくださった方、
ミーミルの気苦労に共感してくださった方、
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ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
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