【12-24】売国奴 上
【第12章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700429613956558
【地図】ヴァナヘイム国
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644
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ヴァナヘイム国 審議会における軍務省次官・ケント=クヴァシル中将の戦いは、連日続いた。
討議者の数は、定員の2倍もの数に膨らんでいた。それを1つ1つ論破しなくてはならない。
討議者に比例して、記者たちの数も伸び、広い議場もやや息苦しさを覚えるまでになっている。
「軍務省次官殿に質問させていただく」
ギャラール代議士・ヴァランディ=ガムラが、ようやく巡ってきたと言わんばかりに登壇した。
ギャラールは、ノーアトゥーンから300キロ北東にある街であり、王都の貴族たちの避暑地として名高い。
貴族たちからの潤沢な寄付金のため、ヴァナヘイム国諸都市のなかでも財政にゆとりがある。それを体現するかのように、かの地の代表・ガムラは、仕立ての良いスーツに磨き込まれた革靴を履いている。
軍部代表の席に座るクヴァシルは、
「あなたが主導しておられる、税の無駄遣いについて問い
心あたりはおありかな――ガムラは言葉の端々に好戦的な色合いをにじませてくる。
「はて、何のことか見当もつきかねます」
議長に促され登壇するも、一言で壇上から下がるクヴァシル。挑発に応じてやる義務も義理もないからだ。
「この都から南方にかけて、関所の建造を進められていることです。いったい何のために関所などを造ろうとしておられるのか。しかも3カ所同時に」
「来るべき敵の襲来に備えるためです」
「敵?敵とは誰のことを指すのです?」
議長に名指しされる度に、慌ただしく質問者と答弁者が入れ替わる。
クヴァシルにとっては、この日、何度目の登壇だろうか。答弁にも大儀そうな色合いが帯びるのを彼は隠そうとしない。
「帝国軍です」
無精髭のなかの口から生まれた軍務次官の言葉に、ギャラール出身の代議士は一度押し黙り、続いてゆっくりと口を開いた。嘲笑めいた響きを乗せて。
「……次官殿の主義主張は、矛盾しておられる。民衆が納めた税を用いて、大規模建築工事を進められている。それは、帝国軍の脅威に
ガムラは声がかすれ、演壇の上にあったガラス製の水差しを掴んだ。コップに水を注ぎ、喉を潤すと質問を続ける。
「その一方で、帝国軍を相手に優位に戦闘を進めている我が軍に、あなたは水を差そうとされている。これを矛盾と言わずして、何と表現すべきでしょうか」
ミーミル総司令官に帝国軍を撃破させれば、関所など造る必要はない。帝国との講和交渉など馬鹿げた議題は、直ちに取り下げなさい――水差しの注ぎ口をこちらに向けながら、ガムラは言い切った。
場内は大きな拍手が響き、この代議士の主張に賛同する声が相次ぐ。
――この男、上手いこと言ったつもりか?
軍務次官は、冷めた目で水差しを見つめていた。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
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クヴァシルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「売国奴 中」お楽しみに。
夕刻の軽便汽車は、軍需工場帰りの学生や老人で、わずかながら混雑していた。
車両の前方にて、10代と思しき若者たちの話題にのぼっているのは、審議会で議論が重ねられている対帝国戦論である。
「まったく、あの軍務次官とやらは何を考えているんだ」
「現場のミーミル閣下が頑張っているのに、本部がそれを妨害するようなことをしやがって」
「後方でのんびりしている軍務次官様は、前線の状況など知らないのだよ」
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