【12-23】審議会 下

【第12章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

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 帝国軍の襲来によって、貴族領主たちや代議士たちが王都から自領へ逃亡してしまったことで、ヴァナヘイム国ではこの数カ月間、審議会を開くことが出来ずにいた。


 ノーアトゥーンにとどまるは、二対の優美な塔と軍務省の貧乏役人だけ――新聞が揶揄するような状況となって久しい。


 そのため、尚書・ヴァジ=ヴィーザルこそ負傷退場したものの、次官・ケント=クヴァシル以下軍務省により、外交・内政まで壟断ろうだんする非常事態が続いていたのである。


 その軍務次官によって抜擢ばってきされたアルベルト=ミーミルの活躍により、帝国軍が退けられつつある。落ち着きを取り戻しつつある王都には、少しずつ為政者たちが戻り始めていた。


 9月も末になり、この国はようやく本来の機能を取り戻したと言えよう。



 だが、そうした状況は、帝国との講和締結に急ぎたい軍務省にとって、まったく喜ばしくないものであった。


 為政者たちが自領に逃げ散っていてくれれば、これまでどおり手際よく、帝国との交渉を進められたであろう。


 なまじとやらに戻ったがために、評議会の根回しに時間と労力を割かれることになった。


 審議会などが再開してしまえば、代議士やら新聞記者どもが入り乱れた議場で、わずらわしい答弁にいちいち付き合わねばならない。



 久々に開会した審議会では、軍務省から提出された「講和論」によって大いに紛糾していた。


「前線では連戦連勝を重ねている。それなのにどうしていま、帝国と講和などせねばならんのか」

 ヴァーラス城塞の民衆代表・リング=ヴェイグジルによる問いかけに、議場には、省庁トップや各領主たちによる賛同の拍手が響く。


 彼の地元は、ヴァナヘイム軍が奪還したばかりであり、勢いに乗っている。


 2年前、この議場で11歳の少女に論破されたことなど、忘却の彼方といった風情である。厚顔無恥さがなければ、代議士などやってはおれぬ職業なのだろう。


【5-15】少女の冒険 ⑨ 精神論

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「これまでの戦闘経緯から、帝国軍の兵数、軍馬数、砲数、弾薬数などを想定したものだが……」


 何やら数字とグラフが描きこまれた大きな紙が、同じように大きな木板の上に貼られている。それを机上に取り出すと、ヴァーラス領の代議士は質問を続けた。


「……このまま我が軍が勝利を重ねていけば、帝国軍を我が領土の外に追い出すことはもちろん、我が国の領土を広げることすら可能ではありませんか!?」


 この代議士は、議場の記者席に山と入り込んだ新聞社のカメラに向かい、大声で質問を結んだ。場内は再び拍手がこだます。


 繰り返すが、数日前にミーミル総司令官が、ヴァーラス城を奪還したばかりである。そのためか、議場に集った者たちはみな、好戦的になっていた。


 たくさんのフラッシュが焚かれ、壇上は木板を持った代議士の記念撮影の場と化している。



 ――これだから新聞屋と癒着した議員は、声ばかりが大きくて始末に悪い。

 クヴァシルは舌打ちをすると、議長に促されるままに、登壇して答弁を始める。


「よく調べておいでだが、帝国軍がこの先、兵力や兵糧弾薬をこれまで以上に増強しないという前提でのご推測は、いかがなものかと思われるが……」


 驚くべきことに、この議員が持ち込んだ大仰なグラフは、帝国軍が兵力・砲弾・弾薬・軍馬を、従前の数から増強しないという前提で作られていた。


 軍籍に身を置くクヴァシルからすれば、自軍の都合に合わせただけの数字遊びに失笑を禁じ得ない。


 論ずるに値しないものだ。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ミーミルの勝利によって、クヴァシルは国政を進めにくくなってしまったな、と思われた方は、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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クヴァシルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「売国奴 上」お楽しみに。


「軍務省次官殿に質問させていただく」

ギャラール代表・ヴァランディ=ガムラが、ようやく巡ってきたと言わんばかりに登壇する。


「あなたが主導しておられる、について問い質したい。心あたりはおありかな」


「はて、何のことか見当もつきかねます」

議長に促され登壇するも、一言で壇上から下がるクヴァシル。

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