【12-22】審議会 上

【第12章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644

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 帝国暦383年9月25日、ヴァナヘイム国王都・ノーアトゥーンでは、久々に審議会が開かれた。


 審議会とは、内政、外交、軍事等、国策を討議する場である。先述のとおり、ヴァナヘイム国の意思決定の場と言える。


【5-12】少女の冒険 ⑥ 壇上へ

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 この合議制は、各省庁の長たち――家格の高さ、統治領の広さ、租税献納額などに応じて、官職を与えられた高等貴族たち――によって構成されている。


 50名程度の人間で国の行く末を決めてしまう閉鎖的かつ専制的な色合いは強い。


 しかしながら、そのなかには、城塞都市ごとの領民選挙によって選ばれた代議士たちも18人座を占める。


 そのことから、帝国議会よりは、はるかに民主的と言えるだろう。




 領民による代議士選出は、熱しやすい民族性とその歴史を表している。


 現国王の曾祖父・オットー=ヴァナヘイム=ヘーニルの時代に、国政に民意が反映されないことへ業を煮やした領民たちが、貴族領主を撲殺する事件が起こる。


 それに飽き足らず、領民たちはその領主の首を掲げ、「陳情のため」王都を目指し行進を始めたのである。


 道中、他の城塞都市を通過するたびに、同じ不平を抱いていた領民たちも次々と加わり、いつの間にか一行は、数万の民衆に膨れ上がっていた。


 彼らはそのまま、ノーアトゥーンの宮殿に押し寄せたのであった。剣や猟銃、農工具まで手にした一行は、もはや軍勢と言っても差し支えなかったことだろう。


 当時の国王をはじめとする為政者たちが、その猛烈な圧力に屈して生まれた仕組みこそ、領民投票制度とそれによって選出された代議士である。



 民衆は賢かった。


 当初は彼らの代表3名に過ぎなかった代議士は、次第に数を増やしていき、今日には当初の6倍を数えるようになっている。


 エルドフリームやリューズニル、それにウルズといった地方都市も代表者を送り込めるようになったことや、ヴァーラスのような大都市からは、複数の代表者を選出できるようになったためである。


 そればかりか、彼らは代議士だけでなく、新聞記者たちも審議会の議場に入れるよう、為政者たちに認めさせていた。


 仲間の漸増ぜんぞうや第三者の同席により、民意の代表者たちが閉鎖された議場に埋没させられることも回避できたのであった。


 だが、審議会を開かれたものにしたあとも、民衆の激発性は変わっていない。


 帝国に対する不甲斐ない戦いぶりにごうやした者たちによって、軍務尚書・ヴァジ=ヴィーザルも襲撃され、国政審議の場から退場させられている。


【4-8】消し方 中

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 その後の帝国軍の侵攻、ミーミルによる挽回ばんかい前のヴァナヘイム軍の体たらくは、これまで記述してきたとおりである。


 王都・ノーアトゥーンに肉薄した侵略軍によって、貴族領主たちや代議士たちがみな自領へ逃亡してしまった。


 軍務尚書も退避のために用意した馬車に、負傷した身を横たえ、自領・ヴィージに退いていた。


 こうして、為政者がほぼ不在となったヴァナヘイム国王都では、この数カ月間、審議会を開くことが出来ずにいたわけである。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ヴァナヘイム領民は、血の気が多いなと改めて感じられた方は、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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クヴァシルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「審議会 下」お楽しみに。


久々に開会した審議会では、軍務省から提出された「講和論」によって大いに紛糾していた。


「前線では連戦連勝を重ねている。それなのにどうしていま、帝国と講和などせねばならんのか」

ヴァーラス城塞の民衆代表リング=ヴェイグジルによる問いかけに、議場には、省庁トップや各領主たちによる賛同の拍手が響く。

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