【5-12】少女の冒険 ⑥ 壇上へ

【第5章 登場人物】

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 外務省・対外政策課長に続いて、軍務省・次官に師事することで(2カ月という短い期間ではあるが)、ソル=ムンディルは、その見識を大いに広めることができていた。


 それは、師・ケント=クヴァシルとの会話のなかで、少女自身も実感している。


 圧倒的な存在である帝国とやり合えば、この国は亡びる――友人の父親が何度も訴えていた帝国避戦論を、ぼさぼさ頭の次官を通じて改めて噛みしめた。そんな少女にとって、故郷や王都での戦乱を待望する空気は、不安と違和感を覚えるものでしかなかった。


 夕方、帰りの軽便汽車に乗るため、少女が駅に向かうと、道端にたむろするたちは、さらに数を増やしていた。さすがに寒さがこたえるのだろう、エーシル神礼拝堂前の広場には、有り合わせの材料でこしらえたテントが軒を連ねている。


 そうしたごろつきどもが、欲求を満たすため、窃盗や強姦を繰り広げているという。


 しかし、帝国避戦論を共有できる相手を得て、気が大きくなっていたのだろうか。ソルはそれらを怖いとは感じなかった。


 むしろ、少女は呆れ返るのだった。「帝国から民衆を守るため」とのお題目を唱えて集った者たちが、民衆に危害を加えている事態に。いよいよ本末転倒ではないか、と。



「お前の力を借りたい」

 クヴァシルからの依頼を、あっさりと引き受けてしまったのも、そうした勢いからであった。


 らしくもなく、指南役が頭を下げてきたこともさることながら、己の知見にソル自身も手応えを覚えていたからに他ならない。


 少女は、ヴァナヘイム国の国政討論の場――審議会の壇上――に立つことになった。




 ヴァナヘイム国において、内政、外交、軍事等国策は、


 評議会……各省庁の代表による合議。


続いて、


 審議会……評議会に各都市の領民代表――城塞都市ごと領民に選ばれた代議士

――を交えた合議。


 2つの討議の場を経て、国王の裁可を得たものが、この国の意思とされる。


 評議会を経ても、審議会で否決されることなど多々あり、国王の裁可など形式上のものであった。つまり、彼女が挑む審議会は、事実上ヴァナヘイム国の判断の場たりえた。


 しかし、議場に臨むにあたり、ソル=ムンディルは気負うことこそあれ、緊張することはなかった。

 

 ヴァーラス領主の娘である彼女は、7歳の頃から毎年エーシル神信仰の収穫祭にて、多くの領民の前で式辞を述べている。


 それに、討議の相手は、同郷の代議士・リング=ヴェイグジルであり、かつ事前に質疑事項などは書面で渡されていたからである。


 何より、答弁のルールなどを簡潔に次官が手ほどきしてくれたことも大きい。



 審議会には、友人とその家族を収容所に追い込んだ黒幕がいる。そこに飛び込むことで、友人とその家族がいる収容所を聞き出せるかもしれない。


 2人の師が唱えた帝国避戦論を、多くの人に伝えたい。



 少女の胸中を占めるは、その2つの想いだけだった。




 審議会当日も、師弟はいつもどおりヴァーラス中央駅セントラルステーションで待ち合わせをした。


「ちょっとスヴァンプに寄っていくぞ」

 懐中時計で時刻を確認したクヴァシルは、キノコ型の小料理屋に立ち寄ることをソルに告げた。


「え、これから食事ですか」


まだランチタイムには早すぎると戸惑う少女に、次官はニッと笑いかける。


「見てくれも舐められないようにしないとな」






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ソルが頼もしくなってきたな、と思われた方、

クヴァシルは、バー・スヴァンプで何をするのか気になった方、

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ソルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「少女の冒険 ⑦ お色直し」お楽しみに。

少女が大人へ化ける!?


マッシュルームをかたどった店の扉をくぐると、待ち構えていた従業員たちよってソルは化粧部屋へ連れ去られた――。

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