【5-12】少女の冒険 ⑥ 壇上へ
【第5章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428838539830
====================
外務省・対外政策課長に続いて、軍務省・次官に師事することで(2カ月という短い期間ではあるが)、ソル=ムンディルは、その見識を大いに広めることができていた。
それは、師・ケント=クヴァシルとの会話のなかで、少女自身も実感している。
圧倒的な存在である帝国とやり合えば、この国は亡びる――友人の父親が何度も訴えていた帝国避戦論を、ぼさぼさ頭の次官を通じて改めて噛みしめた。そんな少女にとって、故郷や王都での戦乱を待望する空気は、不安と違和感を覚えるものでしかなかった。
夕方、帰りの軽便汽車に乗るため、少女が駅に向かうと、道端にたむろするならず者たちは、さらに数を増やしていた。さすがに寒さが
そうしたごろつきどもが、欲求を満たすため、窃盗や強姦を繰り広げているという。
しかし、帝国避戦論を共有できる相手を得て、気が大きくなっていたのだろうか。ソルはそれらを怖いとは感じなかった。
むしろ、少女は呆れ返るのだった。「帝国から民衆を守るため」とのお題目を唱えて集った者たちが、民衆に危害を加えている事態に。いよいよ本末転倒ではないか、と。
「お前の力を借りたい」
クヴァシルからの依頼を、あっさりと引き受けてしまったのも、そうした勢いからであった。
らしくもなく、指南役が頭を下げてきたこともさることながら、己の知見にソル自身も手応えを覚えていたからに他ならない。
少女は、ヴァナヘイム国の国政討論の場――審議会の壇上――に立つことになった。
ヴァナヘイム国において、内政、外交、軍事等国策は、
評議会……各省庁の代表による合議。
続いて、
審議会……評議会に各都市の領民代表――城塞都市ごと領民に選ばれた代議士
――を交えた合議。
2つの討議の場を経て、国王の裁可を得たものが、この国の意思とされる。
評議会を経ても、審議会で否決されることなど多々あり、国王の裁可など形式上のものであった。つまり、彼女が挑む審議会は、事実上ヴァナヘイム国の判断の場たりえた。
しかし、議場に臨むにあたり、ソル=ムンディルは気負うことこそあれ、緊張することはなかった。
ヴァーラス領主の娘である彼女は、7歳の頃から毎年エーシル神信仰の収穫祭にて、多くの領民の前で式辞を述べている。
それに、討議の相手は、同郷の代議士・リング=ヴェイグジルであり、かつ事前に質疑事項などは書面で渡されていたからである。
何より、答弁のルールなどを簡潔に次官が手ほどきしてくれたことも大きい。
審議会には、友人とその家族を収容所に追い込んだ黒幕がいる。そこに飛び込むことで、友人とその家族がいる収容所を聞き出せるかもしれない。
2人の師が唱えた帝国避戦論を、多くの人に伝えたい。
少女の胸中を占めるは、その2つの想いだけだった。
審議会当日も、師弟はいつもどおりヴァーラス
「ちょっとスヴァンプに寄っていくぞ」
懐中時計で時刻を確認したクヴァシルは、キノコ型の小料理屋に立ち寄ることをソルに告げた。
「え、これから食事ですか」
まだランチタイムには早すぎると戸惑う少女に、次官はニッと笑いかける。
「見てくれも舐められないようにしないとな」
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
ソルが頼もしくなってきたな、と思われた方、
クヴァシルは、バー・スヴァンプで何をするのか気になった方、
ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
ソルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「少女の冒険 ⑦ お色直し」お楽しみに。
少女が大人へ化ける!?
マッシュルームを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます