【5-11】少女の冒険 ⑤ 食卓

【第5章 登場人物】

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 軍務省次官ケント=クヴァシルは、王都郊外の冴えない借家に、中年の使用人と2人で暮らしていた。


 次官ともなれば、従卒をたくさん従えて、軍務省近くの高級官舎に入れるだろうに、「息苦しい」「肩がこる」などの理由で、彼はこの古い木造の借家で長く暮らしている。


「相談ごとがあったら、いつでも来ていいぞ」


 ソルは、クヴァシルの言葉を額面どおり受け取り、週末のたびに軽便汽車に揺られてそこへ通った。



 次官の家には、政治から軍事関連までたくさんの本や図鑑があり、希望するものは何でも貸し与えてくれた。


 また、それら書籍の内容から諸外国の様子まで、彼は週末限定の小さな訪問者に対し、いつもいろいろな話をしてくれた。

 

 そこはまるで、ヴァナヘイム城下のかつての友人宅のようだった。


【5-2】異国かぶれ ①

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 実父の部隊が占拠し、貴重な舶来品を燃やしてしまったあの家は、もう自分の前には現れないものだと思い込んでいた。


【5-7】少女の冒険 ① 祭りの前

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 そのため、ふたたびを王都・ノーアトゥーンに見つけることができ、少女はただ嬉しかった。



 だけでは知的欲求が満たされるわけもなく、平日もクヴァシルが定時で退庁できる日は、ソルは屋敷を抜け出し夕食を共にするようにもなった。


 実父は、他の貴族将校との会食や愛妾宅への通いなどで忙しく、屋敷を抜け出すのは容易であった。また、祖母の息がかかった家庭教師たちは、宿題をこなし課題をクリアしていれば、とやかく言ってくることもなかった。



 2人のは、次官行きつけのマッシュルーム型のバー・スヴァンプであった。


 ソルにとって女主人ママの振る舞う料理は、初めて見るものばかりだった。


 ヴァーラス駅周辺の安酒場――友人の父娘おやこと入って以来病みつきになり、ソルがお忍びで通っていた男どものまり場――のジャンクフードともまるで違う。


【5-5】異国かぶれ ④

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 屋敷で提供されるコース料理に比べ、バー・スヴァンプのメニューは派手さこそ欠いたものの、味そのものは絶品であり、少女の冷え切った体を芯から温めた。


 マッシュポテトにコケモモのジャムが添えられたミートボールや、カタクチイワシの塩漬けと玉葱を使ったポテトグラタンなど、どれも一口で少女のほっぺたは落ちた。


 感激したソルは、同じものを屋敷の料理人に作ってもらおうとしたが、どうしても女主人ママの味を再現することはできなかった。




 ノーアトゥーン郊外においても戦乱の風が吹き始めていた。


 帝国との開戦を見越し、それぞれの統治領だけでなくこの王都でも、貴族将校たちによる募兵が始まっている。


 それに応じるため、地方諸都市から上京したのだろう、ガラの悪そうな男女が昼間から道端で酒を呑み、不潔な男たちが広場のそこかしこに座り込む姿が見られた。


 彼等流れ者の目的は、「金銭のため」であろう。貴族将校の統治先で徴募に応じた者たちのような「故郷のため」ではない。両者とも「帝国から民衆を守る」とのお題目を唱えているそうだが。


 王都の中心部では、どうしても宿代や食事代が高くつくので、都に上った者たちは、それらを安く済ませようと、寒風吹きすさぶ郊外にたむろするのだった。



「帝国と勝てない喧嘩をしてはいけねぇんだ」


 駅からの道中で見聞きしたそれらの志願兵の様子をソルが伝えると、クヴァシルは毅然とした様子で彼我の戦力差を口にする。


「動員兵力はゆうに2倍、武器製造能力は100倍、新……」


「『新兵器開発能力に至っては比較にならない』んですよね」

 最後の一言を少女は口ずさみ、ニッと笑う。


 次官はしばし驚いたように見つめていたが、彼女が外務省対外政策課長の薫陶くんとうを受けていたことを思い出したのだろう――彼は目を閉じ、微笑とともに頷いた。





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この先も「航跡」は続いていきます。


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【予 告】

次回、「少女の冒険 ⑥ 壇上へ」お楽しみに。


帝国避戦論を共有できる相手を得て気が大きくなっていたのだろうか、ソルは街に増えていくゴロツキを怖いとは感じなかった。


「お前の力を借りたい」

クヴァシルからの依頼を、あっさりと引き受けてしまったのも、そうした勢いからであった。

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