【5-5】異国かぶれ ④

【世界地図】航跡の舞台

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927860607993226

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 ヴァーラス駅前には、労働者向けの酒場や宿屋が、そこかしこに連なっていた。


 じっくりと時間をかけて駅の見学を終えると、友人の父親は娘たちを連れて安酒場の1つに入った。そこで、彼は麦酒と2つのトマトジュース、それにさかなをいくつか注文した。


 店内は、ひと仕事を終えた汽車乗務員や駅係員、隊商商人やその護衛たちでごった返している。


 早くも酔いが回っているのだろう、大声と曖気あいきで談笑する者、肩を組んで放歌や放屁する者、その賑やかさは窓ガラスを振動させるほどである。


 友人の父親が乗務員や商人に声をかけると、誰も彼もが帝国領から積み荷を運んできたという。そのなかには、東都ダンダアクからはもちろんのこと、大海アロードを渡り、はるばる帝国本土から来た者もいた。


 テーブルの上に、豪快に並べられた白身魚とポテトのフライについても、材料は彼らが帝国から運んできたものだそうだ。


 ソルが手にしているジュースも、その臭いに思わず鼻を摘まんでしまったニシンの塩漬けも、すべて材料は帝国産である。



 店内にさらにが入ってきた。久々の再開なのだろうか、同僚を見つけては快哉かいさいを叫び、抱き合っている。


 こうした酒場から安宿、土産物屋まで、ヴァーラス駅を中心にした宿場町は、彼ら運び屋たちが落とす金で成り立っていた。そこからの税収で、いま少女たちは食事にありついている。



 友人の父は、木製の杯をひと口あおるや、口を開いた。


 彼は若かりし頃に帝国の壮大な武力・工業力を目の当たりにしてから、今日まで同国の国力分析を怠らなかったという。


 帝国は、この国の為政者や民衆が思い描いているものよりも、桁違いにスケールが大きいのだ。

 

 昼間見たように、帝国で造られたおびただしい量の物資が、毎日この時間もヴァナヘイム国内に流れ込んでいる。


 そして、その関係者だけで、郊外の宿場町とはいえ、経済が成り立っている。



 帝国からの物資抜きでは、この国は機能しなくなりつつあるのだ。



 日進月歩の勢いで工業化が進む帝国ならば、銃火器の製造量などヴァナヘイム国のゆうに100倍は下らぬ。


 まして、従来兵器の改良・新兵器の開発にいたっては、ヴァ国はもはや比較するレベルにすら到達していない。


 兵馬についても同じである。


 北のグラナダや南のイフリキアなど、多方面に軍事展開を続けている帝国軍だが、同時にこのイーストコノート大陸においても、十分に軍事行動は可能だろう。


 その規模も、ヴァナヘイム軍における動員兵力を凌駕りょうがするに違いない。



 物資と兵馬から見積もるに、帝国と砲火を交わせば、「この国は必ず亡びます」と、友人の父親は結論付けた。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


宿場町の酒場は楽しそうだな、と思われた方、

帝国の国力に圧倒された方、


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ソルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「異国かぶれ ⑤」お楽しみに。

物語が動きはじめます。


最低限の着替えや本などを革の旅行鞄に押し込んだ友人は、あわただしく馬車に飛び乗った。


「また、遊ぼうね」


「手紙、書くよ」


せわしない雰囲気にのまれ、少女たちは気の利いた言葉を交わすこともできなかった。

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