【12-21】英雄から軍神へ 下
【第12章 登場人物】
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【地図】ヴァナヘイム国
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『腰抜け軍務省による降伏外交』
『現場の声を無視した軍務省の横暴』
帝国暦383年9月下旬――アルベルト=ミーミル大将が、帝国軍相手に連戦連勝を重ねている頃――ヴァナヘイム国内の新聞では、軍務省に対する否定的な記事が、連日のように紙面を飾っていた。
その原因は、軍務省による議題「帝国との講和締結について」が、評議会での合意を得ずに、その上の審議会に提出されることになったからであろう。
各都市の領民代表――代議士――を交えた審議会で可決され、国王の裁可を得たものが、この国の意思とされる。
【5-12】少女の冒険 ⑥ 壇上へ
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言ってしまえば、評議会での合意など不要なのである。
事前根回しも、事後の調整にも耳を貸そうとしない他省庁の態度に業を煮やした軍務省は、評議会をすっ飛ばす強硬策に打って出たのであった。
「次官、今朝の新聞を御覧になりましたか」
軍務省に出仕したケント=クヴァシルに、補佐官たちが近寄って来る。新聞を力強く握りしめながら。
「ああ、汽車のなかで読んだよ」
軍務次官のいつもどおりの沈着な態度は、補佐官たちにとって物足りないものだったのだろう。彼らは上官の後に続き、不平を次々に口にしていく。
「ブン屋ども、こちらの事情も知らないで、好き放題書きやがって」
「『公平な視点』がウリのノーア日報が聞いて呆れますな」
補佐官たちを従えた次官は自室に入り、継ぎばかりの夏物のジャケットを脱いだ。そして、
「前線のアルベルトたちは、勝ちまくっているんだ……」
クヴァシルは、ひょろりとした背をこころもち曲げて、マッチをこすり、火を点ける。
「……それに冷や水を浴びせるようなことを、我々はやっているのさ」
煙とともに溜息を吐き出した。
事実、ミーミル率いるヴァナヘイム軍は、7月20日に帝国軍右翼を撃破した後も勝利を積み重ね、連日その戦果が大きく報道されていた。
帝国軍の夜襲を看破し、同士討ちに導いた
兵法書にある、あらゆる陣立てに即応し、帝国軍をきりきり舞いさせた才覚。
軍記物語もかくやと、ミーミルの手腕は五大陸に驚嘆をもって受け止められた。
ことに、ヴァーラス城の奪還は、民衆を狂喜させた。
7カ月前、帝国軍によって電光石火の速さで落とされたこの城塞は、ヴァナヘイム国南西の要衝である。
城主の愛娘が帝国の手に落ちるなど、新聞各紙を通じて落城悲話が大々的に報道され続けたことで、「ヴァーラス」はヴァ軍敗戦の代名詞になっていた。
事実、同城塞失陥のあと、ヴァ軍は敗北に次ぐ敗北を重ね、遂には王都・ノーアトゥーン一歩手前まで追い詰められたのだった。
そうしたなか、総司令官に就任したアルベルト=ミーミルは、王都にまで迫った帝国の魔手を振り払うどころか、一刀のもとに腕ごと斬り落として見せたのである。
さらには、ヴァナヘイム国領土からも追い落とすことに成功しつつある。
滅亡の暗い淵から、故国を救いだすことに成功した黒髪の若き指揮官について、新聞各紙は
「うちの大将さん……大将閣下の指示は本当に分かりやすいんすよ」
「俺ら頭悪いんで、よく分からないんだけど、あの人の命令どおりに頑張れば、いつの間にか勝ってるんだよな」
ヒューキ=シームル少佐やビル=セーグ少佐等、ヴァナヘイム軍の異端児たちにも、三流新聞による取材は及んだ。
2人とも20代後半に差し掛かりながら、「若気の至り」は衰えを知らず。気に食わない上官と衝突すること数度、その度に降格しながらも、戦場での活躍ですぐに昇格することから、「階段将校」と呼ばれ、ヴァナヘイム領民たちからも愛されていた。
これら異端児佐官たちといい、特務兵(囚人や失業者)たちといい、司令官ミーミルは、とりわけはみ出し者たちから、支持を集めているきらいがある。
このように、総司令官の活躍は、連日大衆新聞によって顔写真とともに報じられた。
ヴァ国の民、とりわけ高齢者は、自宅の女神・エーシルの横にミーミルの写真を
『……すなわち、ヴァナヘイム軍というよりも、アルベルト=ミーミルという個人の存在が、我が軍を最大の不幸に陥れている』
ついに、ヴァナヘイムの若き指揮官の活躍は、ダーナタイムスなど帝国側の新聞でも大きく取り扱われていくようになる。
いまや彼は「救国の英雄」から「軍神」の域に到達しようとしていた。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
ヴァーラス城主の愛娘……ソルとお父様の関係って、もっと冷え込んでいたような、と思い出された方、
帝国との講和締結を見据え、ミーミルのもたらしている「勝勢」は
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クヴァシルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「審議会 上」お楽しみに。
帝国暦383年9月25日、ヴァナヘイム国王都・ノーアトゥーンでは、久々に審議会が開かれます。
それに先立ち、審議会構成員の由来について振り返りたいと思います。
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