【15-4】散歩 下

【第15章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

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 ヴァナヘイム国において、内政、外交、軍事等、国策の意思を決定するのは、審議会という名の合議体である。


 審議会は、各省庁の長と城塞都市からの代表によって構成されていることは、先述のとおりである。


【5-12】少女の冒険 ⑥ 壇上へ

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 もっとも、帝国軍の来襲を知って、大臣や代議士たちは、ほとんどが北方諸都市に逃げ散っており、やむなく次官以下、下手をすれば中間の管理職たちが切り盛りするようになって久しいが。


 その審議会も、いまや帝国弁務官事務所の下に位置付けられ、かろうじて自国の統治を認められている。数を制限されながらも、兵馬の運用も承認されていた。


 しかし、両者は勝者と敗者の関係である。いつ帝国の気分が変わり、ヴァ国の権限が奪われるか分からない。



 そうした状況下、帝国軍と戦い抜いたアルベルト=ミーミル一行など、弁務官事務所の機嫌を損ねたくない審議会からすれば、邪魔な存在でしかなかった。


 渓谷の布陣を解き、王都に落ち延びてきた将兵に対し、ヴァ国・軍務省の反応は冷淡だった。


 次官・ケント=クヴァシル中将遭難後、彼の息がかかった省内の者たちは、ことごとく要職を外されていたのである。風雨や硝煙にまみれ、長らく前線を支えて来た将兵たちを労おうとする者は、軍務省内に留まっていなかった。


 軍務省の意をんだ審議会は、「帝国軍から身を守るため」と称し、民衆に出迎えはおろか外出すら禁じていた。


 さらに同省は「軍機」と称し、従軍していた各国の観戦武官や新聞記者をことごとく遠ざけたのである。




 1月23日深夜、ミーミルとその麾下は、人知れず第1関堤せきていの城門をくぐった。


 そこで待ち構えていた軍務省の者により、総司令官は犯罪者さながらに手枷てかせをかけられ、連行されていった。


 幕僚たちも即日任務を解かれ、一様に軍官舎に閉じ込められたのであった。


 武装を解除させたとはいえ、帝国軍を散々に撃ち破ってきた猛者たちである。先日は渓谷において、仲間内で激しい衝突があったと聞く。


【14-24】武装放棄 3

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 再び暴発を許したら、軍務省直轄の衛兵程度では抑えようがないのだろう。王都には入れずに、ありったけの衛兵を詰めた関堤で対処したことからも、そうした事情がうかがえた。




 数日後、官舎から解放された副司令官・ローズル以下は、各部隊へ散り散りに配属となり、それぞれ閑職へ回された。


 こうして、軍事的にも政治的にも、ミーミルとその幕僚たちは、完全に力を失ったのであった。


 だからこそ、勤務時間中にもかかわらず、所属部隊から抜け出し、に興じることが出来たともいえる。



「このまま帝国に呑み込まれるのを、指をくわえて見ているしかないのか」


「……ミーミル将軍を失ったいま、この国に期待できる人物なんかいないさ」


 彼等は、寂寥せきりょう感とともに無力感を共有するばかりであった。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


一時は「救国の英雄」と称えられた人物が、犯罪者と同様に扱われることに、複雑な思いを抱かれた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「人探し 上」お楽しみに。


「ところで、ミーミルの身柄引き渡しについて、まだ申し入れはないのか」

「ぐずぐずしているようなら、こちらから1個中隊を送り込んでやれ」

「やつらの議場に歩兵を踏みこませて、締め上げてやろう」


帝国暦384年1月17日、ノーアトゥーン中央礼拝堂では、帝国軍の幕僚会議が開かれていた。

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