【14-24】武装放棄 3
【第14章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927859156113930
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王都には家族がいる――1人の軍曹の言葉によって、特務兵たちは冷や水を浴びせられたように静まり返った。
「……!」
「そ、それは……」
特務兵たちは、振り上げていた拳が下がるのと同時に沈着さを取り戻していく。
彼らは、宿無しの失業者と収容所入りの犯罪者と、大きく2つに分けられた。
路上をうろついていた者たちは、身寄りのないことが多い。そうした境遇に身の上を置いた際、一族から縁を切られたケースがほとんどであった。
一方で、収監されていた者たちは、前線に送られるにあたって、家族をそこに残してきている。体のいい人質であった。
宿無しだった者たちは、収容所出の者たちの事情を心得ている。特務兵どうしで顔を見合わせる結果になった。
「さっさと持ち場に戻れ。撤収作業を続けるんだ」
軍曹は、そっぽを向きながら命じた。
「俺たちは、お前らのような
軍曹の最後の一言は蛇足であったかもしれない。
王都に妻子を
「……俺たちにだって、家族を残してきている者もいるんだ」
「なんだって?」
伍長の1人が、その特務兵の胸ぐらを掴む。
「俺たちにも家族はいる」
掴まれながらも、特務兵が短く繰り返すと、伍長は至近距離でそれを罵倒する。
「一緒にするな!この犯罪者どもがッ」
その目にいっそうの
胸元を掴まれていた青年特務兵は、勢いよく付き飛ばされ、痰を吐きかけられた。
「だいたい、あの腰抜け総司令官が悪いんだろが」
「守るべき城塞や街をかなぐり捨てて、こんな谷底で小さくなっていたんだからよ」
「怖じ気づいて隠れている間に、王都を詰まされちまった」
兵長たちが、下卑た笑いを浮かべ、わざとらしいため息をついた時だった。
「……訂正しろ」
突き飛ばされた特務兵が、歯ぎしりしながら立ち上がる。
「なーんか言ったか屑ども」
兵長の1人が耳に手を当て、おどけた姿をした瞬間だった。青年特務兵の拳が、その兵長の顔面を捕らえていた。
「『訂正しろ』って言ったんだ!!」
それを合図のようにして、周囲の特務兵たちも一斉に叫び・わめき・おめき出す。
「腰抜けは、帝国に負け続けたお前らのことだろうがッ!」
「これまでの退却時も、真っ先に逃げ出したのはお前らの仲間だったろうッ」
下士官、正規兵と特務兵のあいだに、全面的な殴り合いが始まった。
総司令官の命令により、全軍に武装放棄が命じられ、数日が経過していた。
誰もが刀剣火器を手放していたため、この場にいる者全員が、素手で殴り、軍靴で蹴り返し、口で噛みついた。
殴り合いの波は、瞬時に伝播した。
正規兵も特務兵も次々と集い、お互いにこれまでの鬱憤を晴らすかのように、乱闘の輪を広げていった。
【12-20】英雄から軍神へ 中
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817330649519953648
【13-12】正規兵と特務兵 中
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前方での
そして、騒乱が谷底中に波及しようとした時だった。
銃声が数発、渓谷に響きわたった。
乱闘に小銃を持ち込んだ輩がいるのか――丸腰の下士官、正規兵、特務兵たちが一斉に手をとめ、周囲を見渡す。ぎらついた両目に驚きと恐怖の色を浮かべながら。
彼らが頭上を仰ぐと、谷間の中腹に軍服姿の将官が立っていた。虚空に拳銃を掲げて。
「……総司令官閣下」
「……大将閣下」
下士官・兵・特務兵は、口や鼻から血を流したまま、一様にその姿を見つめる。
「……」
ヴァナヘイム軍総司令官・アルベルト=ミーミル大将は、黙って乱闘現場を見下ろしていた。手にした銃口から、硝煙をゆったりと漂わせながら。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
正規兵と特務兵のいがみ合いは遂に暴力沙汰に及んでしまいました。帝国軍への降伏受け入れも決まり、ヴァナヘイム軍の今後が気になる方、🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「武装放棄 4」お楽しみに。
「……しばらく、1人になりたい」
国王からの使者を見送ると、ミーミルは幕僚たちにそうつぶやいた。
しかし、彼らは上官の言葉が聞こえないかのように、総司令官私室への道を開けなかった。
「どうした?」
いぶかしげな表情を浮かべるミーミルに対し、副司令官・スカルド=ローズルは、沈痛な面持ちを崩さすに口を開いた。
「……閣下、早まってはなりません」
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