【14-23】武装放棄 2

【第14章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927859156113930

【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

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 帝国暦384年1月16日、ヴァナヘイム軍大将・アルベルト=ミーミルの名をもって、全軍へ武装放棄とケルムト渓谷の帝国軍への明け渡しが発令された。


 現場の総司令部は、王都ノーアトゥーンからの命令(国王裁可・審議会発)に全面的に服従することにしたわけである。



「冗談じゃない!俺たちは帝国軍をすべて撃退してきた」


「そうだッ。俺たちは勝っていた」


「ミーミル将軍は負けていない」


「負けたのは王都の腰抜けどもだッ」


 布達を前に、ヴァ軍・特務兵――かつての失業者や囚人――たちは、紛糾していた。小銃やサーベルを捨て、また道端や収容所に戻れというのか、と。



「将軍にお願いしよう。『俺たちとともに戦ってください』と」


「まだ食糧も弾薬も充分にある」


「ミーミル将軍がご健在ならば、俺たちはまだやれるッ」



 特務兵たちが1人、2人、3人と動きはじめ、それがひとつの塊となった。


 次々と集う小さな塊は、渓谷の底を移動していく間に、大きな集団となっていく。



 ヴァナヘイム軍の兵力不足はいかんともしがたく、総司令部の幕僚ですらトリルハイム城の地下会議室を抜け、ケルムト渓谷の一守備を担わねば間に合わなくなっていた。


 総司令官への嘆願を目的とした、特務兵の集団が進んでいる。


 あと2つ、天然のクランクを曲がれば、いくつもの柵と堀の向こうに、狼の紋章旗が見えるはずだ。その大戦旗の下――ヴァナヘイム軍・総司令部に、アルベルト=ミーミル大将がおられるだろう。



「お前ら、どこに行くつもりだ」

 特務兵一行の前に立ちふさがる別の集団が現れた。


 ヴァナヘイム軍・下士官と兵卒――各所領から従軍している正規兵――たちである。


 自然が生んだ桝形ますがたにおいて、正規兵が特務兵の通行を妨げる構図となった。



「ミーミル将軍にお願いをしにいきます」


「お願いだぁ?」


 下士官たちの声に漂う侮蔑ぶべつの色合いは、いつも以上に強い。それでも、特務兵たちはひるまず続ける。


「ええ、『俺たちとともに、これからも帝国軍と戦ってください』と」


 特務兵たちの言葉を聞いた正規兵たちは、きょとんとした顔で視線を交わし合ったあと、忌々いまいましげに破顔する。


「こいつは驚いた!この国で一番偉いのは、国王陛下か、大将閣下か、分からんヤツがいるらしい」


「さすが、ろくでなしどもは、思考も低レベルだ」


 特務兵は火に油を注がれたようになった。若手たちが食って掛かろうとするのを、背後の壮年たちが羽交い絞めにする。



 そうした様子など見ずに、軍曹の1人がぞんざいに言い捨てる。

「……だいたい俺らの家族は、ノーアトゥーンにいるんだよ」





【作者からのお願い】

攻略困難なため敵に素通りされてしまう……「航跡」におけるケルムト渓谷は、太平洋戦争時のラバウルや、三国志蜀漢末期の剣閣などがモチーフになっています。


この先も「航跡」は続いていきます。


特務兵たちの気持ちが分かる方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「武装放棄 3」お楽しみに。


「……訂正しろ」

突き飛ばされた特務兵が、歯ぎしりしながら立ち上がる。


「なーんか言ったか屑ども」

兵長の1人が耳に手を当て、おどけた姿をした瞬間だった。青年特務兵の拳が、その兵長の顔面を捕らえていた。


「『訂正しろ』って言ったんだ!!」

それを合図のようにして、周囲の特務兵たちも一斉に叫び・わめき・おめき出す。

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