【16-11】宮殿陥落

【第16章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (16章修正)

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 帝国軍は、そのおびただしい数の砲弾に物言わせ、反乱軍と共に討伐軍を滅殺した。


 ノーアトゥーン郊外の戦いについて、終盤はもはや戦闘と呼ぶような代物ではなかった。


 それは、帝国軍需産業各社による新造砲の品評会であり、試射会でもあった。


 帝国軍にはそれだけの余裕すら持ち得ていたのだ。



 その際、帝国軍に旧式砲を向け抵抗を試みたことで、ヴァナヘイム軍は「帝国皇帝に弓引く者」として、再度、討伐対象に認定されたのである。


 帝国側の記録では、苦戦する討伐軍を救うため、帝国軍は軍を進めたが、あろうことか、その討伐軍からの砲撃を受け、反撃を開始した、とされた。


 「手違いだった」との当初の声明は、瞬く間に忘れ去られたのである。


【16-10】手違い 4

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 反乱軍の討伐失敗、反乱軍・討伐軍ともども帝国軍に始末された――一連の騒動に関して、ヴァナヘイム国審議会は、各国の従軍記者たちに強く報道を規制しようとした。


 しかし、事実上ヴァ軍が地上から消滅したいま、もはや審議会はそのような力を持ちえなかった。


 斜陽の国の為政者どもによる恫喝どうかつなど、記者たちの失笑と反感を買うだけだった。新聞各社は、帝国側の発表を事実として、むしろ尾ひれを付けて五大陸へ報じていった。



 こうして、ノーアトゥーン郊外の戦いは終わった。


 かろうじて生き残ったヴァ軍の将校について、歩ける者は捕縛し、そうでない者はその場で始末すると、帝国軍は再び王都に入城した。


 帝国兵は王宮すらもうかがった。


 下衆げすども立ち去れ――女侍従長・レスクヴァ=フリデールだけが宮殿の入口に立ち塞がったが、帝国下士官の銃剣で薙ぎ払われた。


【4-10】道化者と浮浪者

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 王城を守備する者は、もはやいない。


 帝国軍は、女侍従長の遺体を踏みつけ、手つかずの宮殿へ濁流のように押し入った。彼らは王族の財宝をかすめとり、女官たちを次々に犯していった。


 高級酒の窃盗のため、王宮地下の酒造蔵をこじ開けた帝国兵は驚いた。そこには、内務省次官・ヘズ=ブラント以下、ヴァナヘイム国の為政者たち――農務省関係者を除く――が隠れていたからだ。


 西の塔の崩落以降、砲弾の飛来を恐れ、審議会議場は地下倉庫に移設されていた。だが、そのことを帝国軍の末端の兵卒は、知らされていなかった。


 為政者たちは、陽光と銃口に当てられ、もはやあらがう気力も喪失したのだろう。さしたる抵抗を示すこともなく、次々と捕らえられていった。


【14-20】崩落 上

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 反乱軍がその討伐軍ごと鎮圧され、再度帝国軍がノーアトゥーンの城門をくぐっても、農務大臣・ユングヴィ=フロージは、同省執務室で泰然と政務を執り続けた。


 しかし、王宮が帝国の手に落ちたことを知ると、彼は中央礼拝堂――帝国軍総司令部に出頭する。


 そして、

「反乱の企てに対する責任はすべて自分にあり、城門にさらされるのは自分の首を最後にしていただくよう」


「これ以上、ヴァナヘイムの地の前途を担う者たちに、銃口や軍刀を向けぬよう」

嘆願した。



 応対した総司令官・ズフタフ=アトロンは、農務相からの2つの申し出のうち、後者のみを承諾した。


 帝国軍は、ヴァナヘイム国の多くの者に手をかけてきた。


 この先もまた、多くの者に手をかけることだろう。


 帝国との戦争へ世論を誘導しておきながら、北の各地へ逃亡した為政者たちには、所領を取り上げるとともに、その責を問わねばなるまい。


 しかし、土地を愛し、民を憂う有為な人物まで首をねていては、この地で新たなまつりごとを執るにあたり、滞る事態は必定となろう。


 眼前で胡麻塩頭を下げる農務相のような人物には、このまま即戦力として働いてもらわねばならない。


「頭をお上げください――」

 アトロンは、フロージに呼びかけた。と白髭を動かしながら。




 国王・アス=ヴァナヘイム=ヘーニルが、いつ死んだのかは判然としない。


 水の庭園につながる回廊の途中において、儀礼的武装に身を固めた遺体の群れがあった。そのなかに、ひときわ豪奢ごうしゃな鎧を身につけた亡骸が紛れていた。


 財宝を獲りつくした帝国兵たちが、鎧の金細工や宝石を剥ぎ取ろうとして、痩せた遺体を引きずりまわした先のことである。国王の顔を知る帝国将校が、その素性に気がついたのだった。




 こうして、ヴァナヘイム国は滅亡した。帝国暦384年5月のことである。






【作者からのお願い】


「航跡」続編――ブレギア国編の執筆を始めました。

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


宜しくお願い致します。



「航跡」第1部は、あと少しだけ続いていきます。


王宮に審議会に次々と潰され、国が滅びる際は哀れなものだな……と思われた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「異動命令 上」お楽しみに。


「……いままで、本当にご苦労であった。東征軍をここまで立て直してくれたこと、礼を言いたい」

言葉とは裏腹に、アトロンの声は精気に欠け、その視線はやや強張っている。


この朴訥ぼくとつとした老将らしい謝意の表し方だと、レイスは思う。こうした表現も含めて、総司令官のことが彼は好きなのだった。

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