第4話 ヒーローは大体一度は捕まるもん

「それで?君は別の世界からこちらに来たと」

「そうですよ、何度も説明しているじゃないですか」


 あれからコウキは連行され、現在は取調室で取り調べを受けることになっていた。

 相手はスーツを着たキリッとした目が特徴的な女性。

 その女性の質問にコウキは素直に答えていた。

 自分が元の世界で魔法少女たちのように変身して戦っていたこと。

 その戦いの後にこの世界に飛ばされていたことなど。

 聞かれたらできるだけ素直に答えるようにしていた。

 していたのだが……。


「信じられるかそんなもん」

「ですよねぇ~」


 返ってくる答えに同意してしまう。

 コウキも、逆に魔法少女が自分の世界に来て戦ったら信じるには難しいと思っていた。

 実際に世界を目にすることが無い限り、新たな敵、または別の変身者と考えることだろう。


「でも俺は魔法兵器なんてもの使ってないですよ。

 だからこの手錠を外してくださいよ」

「仮に魔法兵器では無くてもザコイヤーを単身で吹っ飛ばせるような威力を持っているやつを野放しにできるわけが無いだろう」

「うっ……」


 女性の言葉に何も言い返すことが出来ない。

 とはいえ疑われていても話すべきこと話したし、これ以上何かできるわけでもない。

 変身するために必要なチャンスマホは没収されているのだから。


(どうすっかなぁ~)


 そんな風に頭を悩ませていると一つの電子音が鳴り響く。

 女性がタイトスカートのポケットに手を入れると一つの端末を取り出した。

 どうやら誰かから通話がかかってきたようだ。


「はいこちら星加……」


 女性が電話に出て、なんどか相槌を打った後、「えっ?」と驚いた声を上げてコウキを見た。


「本気ですか?

 ……はい、わかりました。すぐにお連れ致します」


 なにやら不満そうな顔になりながら通話を切って端末をしまった。


「博士が君にお会いしたいそうだ」

「博士?」

「魔法研究の第一人者であるポケトピッチ博士だ。

 どうやら君の持っていたものに興味を示したらしい」


 名前から察するにマジカノイドなのだろう。

 博士と呼ばれていることから優秀な研究者だということもわかる。

 自分の世界に帰る手がかりを掴むきっかけになるかもしれない。

 そう考えたコウキは頷いた。


「わかった。こちらからもお願いしたい」

「……では案内する」

「この建物にいるのか?」

「ここには魔法の研究施設もある。

 博士はそちらにお住まいだ。

 サッサと向かうぞ」


 女性が右腕を上げると光の鎖が現れ、コウキが付けている手錠に繋がる。


「あの、流石にこれはちょっと」

「規則だ」

「規則っすか……」


 コウキは渋々と立ち上がり、その鎖に引っ張られるように歩く。

 すれ違う人たちの視線が突き刺さる中で犬ってこんな気持ちなのかな、というくだらないことを考えながらエレベーターに乗り込む。

 女性がボタンを押すと、エレベーターが地下に向かって降り始めた。

 結構地下深くに移動したと思えば、次は横へ移動する。

 すると今度は上に上昇した。


「この移動のしかた必要?」

「……博士に聞け」


 女性の態度からしてこれは十中八九、博士とやらの趣味に違いない。

 こういうのが好きなのはどの世界でもいるもんだとコウキは戦う元凶になった義妹を思い出していた。

 エレベーターが目的地に着いたのかチンッという音が鳴り、扉が開く。

 その先には広い空間が広がっており、機材やら魔法陣が浮かんでいる。

 白衣を着た人や台座に乗って何かを話しているマジカノイド。

 全員慌ただしそうだ。

 その中でずっしりと座っているクマのぬいぐるみのようなマジカノイドがいた。


「やぁ星加君、彼を連れてきてくれてありがとう」

「いえ」

「さて、初めまして異世界からの青年。

 私の名前はポケトピッチ。ここの所長兼マスコットキャラを務めている」

「はぁ、どうも」


 出された手を掴んで握手を交わす。

 柔らかく、触り心地が良い。

 しかしいつまでも握っているわけにはいかないのでコウキは少々の名残惜しさを感じながら手を放す。


「あっ、星加君。手錠を外してくれて構わないよ」

「し、しかし」

「彼に我々を脅かす意思は感じられないよ。

 それに妹の命の恩人なんだからもっと優しくしてあげないと」

「……妹?」

「あっ!百合姉さん!」


 コウキが首を傾げると後ろから声が聞こえる。

 後ろを向くと少女がこちらに駆け寄ってきた。


「なんで姉さんがこちらに」

「取り調べ中の男を連れてきたんだ。博士からのご要望でな」

「男?」


 少女がコウキを見る。

 ハッと目を見開く。


「アナタは……」

「えっと……どこかであったことある?」


 少女の容姿は控えめに言っても美少女だ。

 いくら人の顔を覚えるのが苦手なコウキでも、このような美少女に会えば記憶に残るはず。

 だが、全く覚えていないことに首を捻る。


「あの時は変身していたのでわからないでしょうが、あの時一緒に戦った魔法少女です」

「あぁ!?あの時の!?」

「星加つつじと言います。魔法少女名はアザレア。

 助けてくれたのにいきなり拘束してしまってごめんなさい」

「いや、君の仕事をしただけだよ。

 謝らなくてもいいから、頭を上げてくれ」


 頭を下げるつつじに対し、コウキは困った笑顔を浮かべる。

 確かにこんな状況になっているのはつつじのせいではあるのだが、別にそれを咎める気はない。


「あと、あの時みたいに気軽に喋ってくれ。

 俺、敬語を使われるのは苦手なんだ」

「そう?じゃあ、お言葉に甘えることにするわ」

「それよりつつじ、お前はなんでここにいるんだ?」

「それは私が呼んだからさ」


 ポケトピッチはいつの間にかけていたメガネをクイッと上げて話を始める。


「さて、コウキくんだったかな?」

「あっ、はい」

「君の事情は伺っている。

 この世界とは別の世界から来たということも」

「信用してくれるのか?」

「もちろん。

 元々我々マジカノイドも別の世界の住人だしね」

「……はっ!?」


 ポケトピッチはリモコンを操作して机の上のモニターを切り替える。

 そこに映っているのは二つの地球だ。


「こっちが元々の世界、それでこっちがマジカノイドの世界。

 今から数百年ほど前に突然、この世界同士がいきなり混ざりあって融合した」

「原因は?」

「いまだ不明さ。

 融合した際色々な魔法災害や地殻変動があったから何が原因がわからないんだ。

 いやほんと大変だったよ」

「まるで見てきたみたいな言い方だな」

「見てきたよ。

 こう見えて私は長生きだからね」


 えへんと小さな胸を張る。

 コウキは隣の百合と呼ばれた女性を見た。


「事実だ。

 博士は融合の際に起きた魔法災害に巻き込まれて不老不寿になられたそうだ」

「不寿?不死じゃなくて?」

「大きな怪我とかで普通に死ぬからね。

 ただ歳を重ねてもいつまでもピンピンしてるから『不寿』と名乗っているのさ」

「はぁ」

「まぁ私の事はいいんだ。話を戻そう。

 こういった事例もあることから、この世界とは別に他の世界があっても何ら不思議なことではない。それに」


 ポケトピッチはポケットからチャンスマホを取り出した。


「俺のチャンスマホ!」

「この端末に使われているのは我々の世界とは全く異なる技術だ。

 実に興味深い。どんな天才がこれを作ったのか……ぜひお会いして互いの研究論を話し合いたいところだ」

「天才というかみたいなやつだけどな」

「親密な関係?」

「それを押し付けてきた上に妹を名乗ってウチに住み込んでる」

「ただならぬ気配を感じるね」


 いやほんとに。

 憎たらしい顔をする義妹を思い浮かべながらコウキは唸った。


「まぁ、だから君の話を信じるに至ったわけさ」

「隣の人は全く信じてくれなかったんですけど」

「星加君は頭が固いからね」

「博士ッ!!」

「まぁまぁ姉さん……」


 キッっと目を吊り上げる百合をつつじが宥める。

 ポケトピッチは慣れているのかニコニコ笑って受け流したあと、「さて」と手を叩いて空気を切り替える。


「コウキ君。

 積もる話をしようか」

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