第2話 魔法のある世界
ぴちょん、ぴちょんという音が聞こえる。
青年はその音をきっかけに目を開ける。
徐々に意識がはっきりとしていき、痛む身体を起こしながら辺りを見回した。
「どこだここ……」
青年、望月コウキは見覚えのない場所に困惑した。
コウキは顔に手を当て、直前までしていたことを思い出そうと頭を動かす。
「……そうだ!奴は!?」
思い出したと同時にコウキは改めて周りをしっかりと見渡した。
ぱっと見何処かの路地裏に見えるその場所は、つい先ほどまで自分がいた場所とはまるで違う。
その場にいるのも自分一人だけだった。
(どこか別の場所に飛ばされた?)
コウキは色々と考え、ポケットに入れている端末を取り出して仲間へと連絡する。
しかし……。
『現在、この番号は使われておりません』
「はぁ?」
返ってきた端末の答えに思わず声を上げてしまう。
圏外や留守電ではなく、使用されていないとは一体どう言うことなのか?
いくら考えてもその答えがわからないコウキはとりあえず動くことにした。
「道に出ればここがどこかわかるだろ……」
頭をぽりぽりと掻きながら裏路地を出た。
まずは情報収集だ。
街並みは自分たちが過ごしていたところとあまり違いはない。
周囲を歩く人たちも特に変わったところも見当たらない。
浮いている車が車道を走っていたりや人間のように歩くぬいぐるみがいなければの話だが。
コウキはしばらくその光景に目を奪われ、青空を見上げる。
「世界は、広いな」
遠い目をしてポツリと呟いた。
@@@@
『本日も魔法少女たちの大活躍!
ザコイヤーとの戦いに勝利しました!』
『今回のザコイヤーは大型でしたが人的被害は無く、周囲の破損も魔法によって修復可能範囲。素晴らしい活躍ですね』
コウキはあの場所から離れたところにあるラーメン屋で豚骨ラーメンを啜りながらテレビを眺めていた。
置いてある新聞や流れるテレビの情報からするに、ここは自分が居た世界とはまた別の世界らしい。
この世界には魔法という技術が発展しており、それをもたらした幻想種族マジカノイドと呼ばれる種族と共存している。
さらには魔法少女と呼ばれる存在とザコイヤーと呼ばれる化物が存在しているという。
偶発的に現れるザコイヤーを魔法少女が倒し、危険を取り除く。
それ以外にも魔法少女は災害時や事故などの救助や支援活動を行っているとのこと。
「別の世界にも俺たちみたいなのや怪人みたいなのがいるんだな」
ちなみに通貨はこちらでも利用できた。
ラーメン屋に入る前に自動販売機で硬貨や紙幣を入れて確かめたので間違いはない。
現金を持ち歩く主義だったコウキにとってはありがたい話だ。
とはいえ多くの金額は所持していない。
一日や二日ならどこかのネットカフェで寝泊まりできるだろうが、その間に自分が元の世界に戻れる確証はない。
どうしたものかと考え、ため息が出る。
「どうした兄ちゃん、浮かない顔して」
ラーメン屋の大将が心配そうに声をかけてきた。
よほど暗い顔をしていたのだろう。コウキは「あぁいや」と口を開く。
「ちょっと先行きが不安で……大将、履歴書無しで住み込みで働けるとこ知らない?」
「なんだ?家から叩き出されでもしたのか?」
「まぁそんなとこ」
家どころか世界を跨いでいるわけだが。
「なんならここで雇ってくれてもいいよ」
「何から目線なんだお前……?
しかし素性もわからないやつを雇ってくれるのなんて大抵良くない職場だぜ」
「そうだよなぁ……」
前の世界でもそれでドジ踏んだ仲間がいる。
まさか怪人の片棒をつがされそうになるとは。
気づくのがもう少し遅れていれば仲間は危なかっただろうなとしみじみと思い出していた。
「あー、いや知り合いの修復業者がバイトを募集してたな」
「修復業者?」
「ほら、ザコイヤーが暴れたら専門の業者が修復作業するんだよ。
最近は頻発して現れるもんだから民間のほうにもそれなりに仕事が舞い込んでくるみたいでな」
「へぇ〜」
「良ければ紹介してやろうか?」
「マジっすか」
この大将はとても面倒見がいいらしい。
だが、一つ疑問に思う点があることをコウキは気がついた。
「……それって魔法使う感じ?」
「そうだが?なんでそんな……もしかして、お前さんは魔法が使えないのか」
「あー、うん」
この世界の住人ではないコウキは魔法と無縁である。
魔法なんて使えるはずがなかった。
「魔無しのヤツなんて初めて会ったぜ」
「それでどうなんだ?」
「無理だな。魔法が使えないなら魔力が無いってことだ。
魔道具ありきの仕事にはとてもできる仕事じゃない」
「そっかぁ……」
コウキは再び項垂れる。
しかしすぐに顔を上げて切り替えた。
「まぁ色々話を聞いてくれてありがとう。
ラーメン美味かった。また来るよ」
「おう、ありがとうな。
兄ちゃんも頑張れよ」
料金を支払い、コウキは大将の応援を背に受けて店を出た。
大きく背伸びした後に顔をぺちんと叩く。
「とりあえず仕事探すか」
元の世界に帰るためにも。
そう意思を固め、コウキは駆け回る。
あちらこちらに自分ができるような仕事を探しては断られ探しては断られ。
働けそうな場所はあからさまにやばい雰囲気を醸し出していた。
帰る前に自分がどうにかなってしまいそうな気配を感じたのですぐに撤退。
途中で困っている老人やマジカノイドの手助けを行い、また仕事を探す。
それから二日後。
「ダメだこれ」
公園のベンチで両手両足を広げて打ちのめされていた。
それを見た親子が「あれなにー?」「見ちゃいけません!」という会話をしている。
余計なことに心を傷つかせながらベンチに座り直した。
「どこも魔法魔法。
まさか土木作業や建設作業にも魔法が使えないとダメだなんて」
元の世界で電気で機械を動かすのが当たり前に使用されていた様にこの世界では魔力で魔道具を動かすのが当たり前らしい。
魔道具を使用したパワーアシストで仕事をするようなので、そんなことのできないコウキは雇われることはなかった。
「寝泊まりする金がもう無くなる。
野宿はできればしたく無いんだけれども」
頭を抱えた。
現状これをどうすることもできない。
とはいえこんなところで座り込んでいても状況が変化することはないのでコウキは大きくため息をつきながら立ち上がった。
「とりあえずもう少し頑張って」
「キャァァァァァ!!!」
「!?」
再度仕事を探そうとした時、大きな悲鳴が上がった。
すぐに声の方へと向かう。
そこには大きなタコの化物の姿があった。
「あれがザコイヤーってやつか!」
「ザコイヤァァァァ!」
ザコイヤーは叫びながらその大きな触手を鞭のようにしならせて周囲を破壊する。
その場にいた人々は悲鳴を上げながら逃げ、一刻もその場から離れようとしてする。
しかし。
「あっ」
「シュウくん!?」
その中で少年が転び、母親と離れる。
偶然が必然か、その少年に触手が振り下ろされていた。
コウキはすぐさま母親を隣を通り、少年を抱えて飛び退く。
なんとか触手を回避することができ、少年も無事に助けることができた。
「坊主、大丈夫か?」
「う、うん」
「よかった」
「シュウくん!」
「早く安全なところへ!」
コウキは駆け寄る母親に少年を渡して離れるように告げる。
母親は頷き、少年の手を強く握って走る。
その場に残るのはコウキとザコイヤーのみ。
ザコイヤーはギョロリとその目でコウキを捉えて、触手をうねらせる。
「さて」
コウキは端末を取り出し、あるアプリを起動させようとした。
その瞬間、なにかがザコイヤーの頭にぶつかり、派手に爆発を起こす。
すわ何事かと目を見開いていると隣に誰かが現れた。
「早く逃げてください!ここは私が引き受けます!」
それは魔法少女らしき少女だった。
全体的にピンク色で染まっており、白いフリルで装飾されている。
片手に持つのは剣だろうか。淡く光っており、きっとザコイヤーに攻撃したのはこれから魔法を使ったのだろう。
コウキは取り出した端末をしまい、頷いた。
「頑張って!」
「はいっ!」
コウキはその場を離れる……フリをして近くの建物に隠れた。
戦うのは専門家に任せるのが一番ではあるが念の為だ。
それにこの世界で戦う魔法少女というのにも興味があった。
息を潜め、じっと見つめる。
「お手並み拝見ってな」
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