第3話 謎の戦士現るっ!/ヒーローの性

「はぁぁぁ!!」


 魔法少女・アザレアこと星加ほしかつつじはザコイヤーに立ち向かう。

 迫りくる触手を避け、自分に注意を向けさせるように空で動きまわる。


アザレアつつじ!その周りはもう避難完了しているッチャ!』

「わかった!」


 頭の中に直接可愛らしい声が響く。

 パートナーであるマジカノイドのチャップルだ。

 彼はアザレアのサポートをする為に離れたところでこの周囲を観測している。

 周囲の安全が確認できたところでアザレアは息を大きく吸い込みザコイヤーに突貫する。

 迫りくる触手をくぐり抜けて、光り輝く剣を叩き込む。

 残念ながらそのまま両断することはできなかったが、大きく仰け反らせ、傷をつけることが出来た。


「よしっ!」


 自分の攻撃が効果ある。

 そのことに心の中でガッツボーズをしながら更に追撃を重ねた。

 縦横無尽に飛び回りながらザコイヤーの攻撃を避け、弾き、着実にダメージを蓄積させていく。

 アザレアには大きな必殺技はいまだないが、その優れた機動力で着実に相手を削っていくことはできる。

 今回のザコイヤーは大型な為か動きが遅い。

 アザレアにとっては難なく倒せる相手。

 そう確信していた。


「イヤァァァァー!!!」

「えっ!?」


 それが命取りになる。

 ザコイヤーは口と思われる部分から黒い水を噴射させた。

 油断をしていたアザレアはそれをまともに喰らうが、すぐに後ろに飛んでザコイヤーから距離をとり、全身を確認する。


「濡れているけど、痛くはない……?」


 こけおどしか?

 そう思ったのはつかの間、急に力が抜け、空中から地面に向かって落ち始めた。


「えっ!?」

『アザレアッ!?』


 アザレアはすぐに飛び直そうと力を込め直そうとするが、全く浮遊する様子がない。

 先程の水のせいだろう。

 不味いと思い、すぐに剣に魔力を流す。

 こちらは問題なくできた。

 ならば、地面にぶつかる前に剣をぶつければまだ助かるかもしれない。

 しかし失敗すれば魔法少女と言えど待ち受ける結末は……。


「一か八か、かけるしか」

「いや、その必要はないぜ」

「えっ?」


 謎の声が聞こえるとアザレアは誰かに抱えられた。

 顔を上げると目に入るのは謎の人物。

 その人物は地面に降り立つとアザレアを降ろす。


「ご無事かいお嬢さん?」

「あっ、はい。大丈夫です」


 改めてその人物を見る。

 頭にはヘルメットのような、それとは少し違うスタイリッシュな被り物をしており、身体は装甲で身を包んでいた。

 その他に各部には何かしらの装備が身に付けられている。

 訓練用のサイボーグに少し似ているが、アレとは違う雰囲気を感じる。


「後は任せてお嬢さんは下がってな」

「あ、あなたは……?」


 アザレアは目の前の人物に問う。

 その人物は「あぁ」と親指で自分を指しながら名乗った。


「俺は『チャンスター』

 通りすがりの、ただのヒーロー気取りさ」


 ☆


(思わず変身してしまった……)


 魔法少女が急に落ち始めたので咄嗟に変身アイテム『チャンスマホ』を使って彼女を助けてしまった。

 変身してしまったのは仕方ないと頭を切り替え、コウキはザコイヤーに顔を向ける。

 大型の怪人とは戦ったことはあるが、その時は専用のビークルがあった。

 それを抜きに戦うとなると少々厳しいだろう。


「なんとかなるか」

「ちょっと!?戦う気!?」

「あぁ、大丈夫。慣れてるから」


 慌てる魔法少女を安心させるようにそう言って前に進む。

 ザコイヤーは声を荒げながら大きな触手を振り下ろした。

 後ろから叫び声が聞こえるがコウキは拳を握り、その触手へと突き出した。

 大きな衝撃音。

 触手は跳ね返される。


「嘘……」

「ふむ、思ったより軽いな?

 これなら通常フォームでも行けるか」


 殴った感触で相手の実力を確かめた後、コウキは走り始める。

 ザコイヤーはコウキを脅威に感じたのか焦るように動き始め周りにある街灯や車を持ち上げて投げつけ始めた。


「そんな攻撃は、当たらないぜ!」


 街灯を避け、迫りくる車を滑って潜り抜ける。

 効果が無いと理解したのか、次は近くの建物を破壊し、大きな瓦礫がコウキに向かって降り注ぐ。

 コウキは腰の横にセットされているチャンスマホを素早く操作した。


『チャンスアーム!』


 機械音声が流れると脚に光の粒子が集まり、新たな装甲が装着される。

 コウキが跳躍し、降り注ぐ瓦礫を全力で蹴り上げ、粉砕。

 更にその瓦礫を足場に撥ねるように移動してザコイヤーの前へと飛び出した。

 コウキはその大きな頭に向かってかかと落としを繰り出す。

 確かな弾力を脚に感じ、しっかりと攻撃が決まった。

 ついでとばかりに顔を踏んで後ろへと跳躍。

 ザコイヤーが沈む姿を見ながら魔法少女の元へと着地した。


「まっ、こんなもんかな」

「あ、あなたは一体?」


 一仕事終えて大きく息をつく。

 コウキは変身を解こうとチャンスマホに手をかけるが。


「ザコイヤァァア!!」

「アレッ!?」


 倒したはずのザコイヤーが大声を上げて起き上がってきた。

 完全に仕留めたと思ったのに、と考えるがあることに気が付き、おそるおそると指を指しながら隣の魔法少女へと質問する。


「もしかして、アレって魔力とか魔法とか使わないと倒せない感じ?」

「当たり前じゃない!

 えっ、というかそれ魔法兵器じゃないの!?」

「あー、うん。

 いや参ったなこれ」

「……やっぱり私が」

「あぁ待った待った!君、その状態じゃまともに戦えないだろう」

「じゃあどうするっていうのよ!このままじゃ被害が広がるわ!」

「そりゃそうなんだけど……んっ?」


 コウキは魔法少女を宥めながら手に持っている剣に気が付く。

 抱えた時からずっと光輝いている剣。もしかしたらとコウキは考えた。


「ねぇその剣って魔力とかパワー籠めて威力上がる?」

「えっ、えぇまぁ」

「手放してもその状態って続く?」

「続くわ。なによさっきから?」

「ワンチャンあるってことさ」


 コウキはそう言って再びザコイヤーに向けて走り出す。


「ちょっと!!」

「俺が合図したらその剣をあいつに向かって投げてくれ!!

 できれば籠められるだけ力を籠めてから!!」

「はぁ!?

 ……あぁもう!!」


 コウキの行動を理解できないまま魔法少女は両手で剣を握った。

 光が強くなり始める様子から力を注いでいることが分かる。

 それを見た後、コウキはザコイヤーの注意を引き始めた。

 殴り、蹴り、避ける。

 ザコイヤーは段々と苛立ってきているのか動きが粗雑になり始めていた。

 コウキが動きを見切り、隙を見つけるとザコイヤーの身体に力強い拳が入った。


「イヤァァァァー!?」

「今だっ!!!」


 コウキが叫ぶと魔法少女は剣を構え、ザコイヤーに向けて投げる。

 一直線、直撃コース。

 流星のように投げられた剣はザコイヤーに突き刺さった。


「やった!」


 魔法少女に笑顔が浮かぶ。

 しかし。


「ィィィヤアアアア!!」


 ザコイヤーは倒せない。

 そのことに魔法少女が絶望する。

 だがそこには希望チャンスが存在した。


「ワンチャン届いたぜ!!」

『チャンスタイム!』


 機械音声が響き、脚に光が集まる。

 力強く踏みしめるとコンクリートが砕け、先ほどから見せていた跳躍とは比べ物にならない速さで跳んだ。

 途中で体勢を変え、コウキは刺さった剣の柄尻に足裏を当てる。


『チャンストライク!!』


 そして剣とコウキはザコイヤーの身体を貫き、大きな穴を作った。

 通り抜けたコウキは地面を滑りながら着地し、立ち上がる。

 そうしてザコイヤーは爆発と共に消滅していった。

 今度こそ倒したことを確認するとコウキは魔法少女の元へと駆け戻る。


「おーい、大丈夫か?」

「それはこちらのセリフなのだけれど」

「それなら大丈夫だ。

 あー、それとごめん。剣壊れちゃった」


 コウキは刃が折れている剣を魔法少女に渡す。


「別に問題ないわよ。コレは魔力で形成されてるからすぐに別の作れるし」

「そっか、そりゃよかった」


 コウキはそう言って変身を解く。

 チャンスターの装甲は粒子になり消え、元の青年の姿になった。


「ありがとう。とても助かったわ」

「いやいや。ただのお節介だし、気にしないでいい」

「そう。じゃあもう一つお願いしていいかしら?」

「なんだ?」

「手を出してもらっていい?できれば両手を」

「おいおい握手なんて柄じゃないんだけどなぁ」


 そう言いながらもニヤニヤと笑いながらコウキは両手を出す。

 するとカチャンと音と共に両手首に何かが付けられていた。

 光り輝いているブレスレットだ。

 間にはそれを繋ぐ鎖がある。

 これはコウキにとって見覚えのある形状だった。


「あの、これって……」

「ごめんなさい。

 貴方を違法魔法兵器使用の疑いで拘束します」


 その言葉と共に光の輪がコウキの身体を縛った。


「うっそぉ~ん」

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