第11話 この街の魔法少女
「あれからもう既に早三日か……」
変身したまま、街を歩く
時折すれ違いざまに手を振る女の子に手を振り返し、横断歩道を渡る老婆の荷物を持ち、ボールほどのサイズのザコイヤーを処理する。
魔法少女としての活動としては満点を貰えるだろう。
「ただこの姿ばかりはなぁ」
チャンスターは老婆からお礼に貰ったミカンを公園のベンチに座って食べながら少々の不安を漏らしていた。
「まだいやいや言っているッチャ?」
「複雑なんだよ男の子は」
「男の子って歳ではないだろッチャ」
「うるせぇ」
隣にはチャップルが同じようにミカンを頬張っていた。
魔法少女たちが学校に通っている間、チャップルはチャンスターのサポートをする為に共に行動している。
「博士にはとっとと元の姿に戻せるよう頑張ってほしいぜ」
「別に良くないッチャ?
そっちのチャンスターの方が他の人に好かれやすいッチャよ」
ほら。とチャップルが小さな手を前に向ける。
そちらを見ると目を輝かせてこちらを見る子供たちの姿があった。
チャンスターは気まずそうな笑顔を浮かべ、手を振ると子供たちはキャーキャーと声を上げてこちらに駆け寄ってきた。
「おねぇちゃんってまほうしょーじょ!?」
「いつも見るおねーちゃんとはちがう!」
「ねぇ、おなまえは?」
「お、おぉ……」
わらわらと集まる子供たちに囲まれ、そのまま流れる様に遊びに巻き込まれる。
それから2時間ほど遊びに付き合わされた後、子供たちはそれぞれの家に帰っていった。
チャンスターはヘロヘロになりながらベンチに座る。
「魔法少女は、大変だな」
「いや、別に子供と遊ぶのは魔法少女の仕事じゃないッチャよ」
「じゃあ止めてくれよ!」
「別に今は急ぎの用事もないッチャからね。
何かあれば連絡くるようになっているッチャし」
「何のためのパトロールだ」
チャンスターは頭を伏せ、大きなため息をつく。
「こう、チャンスターさん~!」
「んっ?」
どこからか名前を呼ばれたのでチャンスターは周りを見渡す。
するとそこにはつつじが手を振ってこちらに歩いていた。
着ているのは学校に通っている制服だろう。
「つつじか」
「お疲れ様。
魔法少女の活動はどう?」
「結構大変だよ。
もう学校は終わったのか?」
「えぇ、今からみんなでどこか寄り道していこうかなって歩いてたら見かけたから声をかけたの」
「へぇ~、それで?そちらの二人も魔法少女なのか?」
「えぇ、紹介するわね」
つつじが二歩ズレて後ろにいる人物の顔が見える。
「こちらは
魔法少女名はヘヴン・ゴージャス。
それでこちらは
魔法少女名はファイアーワークス。
二人共頼れる魔法少女よ」
弁財天金子。
金髪の縦ロールとその出立から、ぱっと見でもいいとこ育ちという気品の良さを漂わせている。
もう一人の空野花火は赤い髪のサイドテールと赤い瞳が特徴的で、ふわっとした優しい印象を感じさせる。
「初めまして、俺は望月コウキ。
これからよろしく」
チャンスターは手を出して歩み寄る。
だが二人は面を喰らったような顔をして固まっており、まじまじとチャンスターの顔を見つめていた。
「えっと……」
「事情は伺っていますけれど、ほんとに殿方なのですの?」
「どう見ても可愛い女の子にしか見えないですけれど」
「あー、そうだよな」
チャンスターは出した手を頭に回し、ポリポリと掻く。
どうしたものかと考え、チャップルを見た。
「なぁ、もう変身解いてもいいか?」
「んー、まぁ三人が学校終わってるし大丈夫、ッチャかね?」
「大丈夫よ。何かあったら私たちが出るわ」
「じゃあいいッチャ」
「えっとじゃあ……」
チャンスターはどこか隠れる場所を探し、ベンチの裏の木陰に隠れてしゃがみ変身を解く。
一瞬だけ全身が光り、その光が無くなると元の姿に戻ったコウキは立ち上がり、改めて三人の元に行く。
「はい、改めましてチャンスターこと望月コウキだ。
以後よろしく頼む」
「はえ~!これはびっくりですわ!」
「ほ、ほんとに男の人なんですね」
「うん……できればずっとこっちの方がいいんだけれどな」
先程の子供のように目を輝かせる二人。
また複雑な感情に包まれながら苦笑いを浮かべた。
「ではつつじから紹介していただきましたが、自分でも自己紹介を。
ワタクシは弁財天金子ですわ。
魔法少女はヘヴン・ゴージャスとして活動していますわ」
「なんかすごいゴージャスってことはすごく伝わる。
実際ゴージャスなのか?」
「何ですかその小学生みたいな質問。
でもまぁ、ワタクシの父は弁財天グループの代表を務めていますから、ちょっとしたお金持ちではありますわね」
「へぇ~」
コウキはちらっとつつじを見ると首を横に振った。
つまりちょっとどころでは無いのだろうとなんとなく察する。
「わ、わたしは空野花火と言います。
魔法少女名はファイアーワークスです。
お姉ちゃんと一緒に活動してます」
「君にもお姉さんがいるのか。
……ん?あれ」
「どうしました?」
「つつじやチャップルからこの街の魔法少女は三人って聞いてたからさ。
お姉さんを入れたら四人にならないか?」
「えーっと、それはちょっとした事情がありまして」
花火がうんうんと悩む素振りを見せる。
どう説明するか考えているのだろう。
するとそれぞれの端末から大きな音が鳴り響いた。
中型以上のザコイヤーが現れた時に鳴る警報だ。
「場所は!?」
「ここからあまり離れてないッチャ!」
「しまったな。やっぱり変身解くべきじゃなかったか」
「いや、丁度いいかも」
「えっ?」
花火の言葉にコウキは驚く。
「わたしが行きます!
お姉ちゃんも挨拶したいみたいですし」
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