第7話 怪人

「あぁもうなんでこんなことになってんだ!」

「そんなこと言ってないで手を動かしてくださいまし!」

「わぁってるよ!」


 パトロールしていた魔法少女が続々と現れるザコイヤーを蹴散らし、街を守るために戦う。

 だが、限りなく現れるザコイヤーを殲滅することはできなかった。

 これを生み出している謎の存在を倒せば、少なくともこれ以上増えることは無くなるだろうがそこまで辿り着くことが出来ない。


「増援は!?」

「もう少しでアザレアが来ますわ!」

「一人だけかよ!やっぱ増やそうぜこの街の魔法少女!

 研究所みたいな重要施設があるんだからさぁ!」

「そうは!言っても!

 普通はこんなにザコイヤーが現れるなんてことありませんわよ!

 前代未聞っ!ですわ!」


 飛び掛かるザコイヤーを払いのけ、数を減らす。

 一体だけなら大した強さではないが、休む間もなく襲い掛かってくるので体力も魔力も段々と削られていた。

 少しずつ余裕がなくなり始めた時、つつじ色の斬撃が飛びこんでくる。

 魔法少女たちはバッと飛んできた方向を見ると、そこにはアザレアつつじが飛行してこちらに向かっていた。

 二人の元へと着地すると機敏な動きで身体を動かし、剣を振るう。

 それにより周囲のザコイヤーは一掃された。


「大丈夫!?」

「助かった!さすが大将!」

「だれが大将よ!」

「ふざけてる場合じゃありませんわ!

 アザレア、話は聞いていまして?」

「えぇ、これの元凶がいるらしいわね」


 アザレアはザコイヤーが現れる先。

 その先に倒すべき相手が存在する


「ここは私たちが受け持ちますわ。

 アザレアはあちらの対処を」

「はぁ!?アザレアは範囲攻撃持ちなんだからこっちだろ!

 むしろ単体相手が得意なアタシたちのどっちがが行くべきじゃ」

「そうするには魔力が心もとないですわ。

 万全な状態で戦える方にお任せしたほうがいいと思いますの」

「ぐぬぬ……しゃあねぇ、頼んだぞアザレア!」

「うん!」


 託されたアザレアは再び空を飛び、先へと行く。

 露払いと斬撃で散らばるザコイヤーを倒しながら進むと元凶らしき影が見えた。


「あれが……」


 ぱっと見人型。

 だがその頭や腕にはまるで掃除機を彷彿とさせるようなものがくっついている。

 片手から黒い靄を吸い込み、もう片方の手からザコイヤーを排出。


「あの靄は?」


 アザレアは周囲を見渡す。

 すると建物の中にはまだ避難を完了していない人たちが苦しそうに床に倒れているのを発見している。

 それを見てアザレアは「まさか」と驚く。


「人から負のエネルギーを?」


 そういう装置が存在するのは知っている。

 それを使ってザコイヤーが生み出されたのを目にしたのは記憶に新しい。

 この人型掃除機は単身、何の装置も使用せずに行っていた。


「でもどうしてあんな苦しそうに?

 普通はあんな風にならないはずじゃ……いや、とにかくアレをどうにかしないと!」


 アザレアは剣を構え、その人型掃除機へと斬りかかる。

 人型掃除機はアザレアの存在に気が付いたのかザコイヤーを出していた片方の手を向け、光弾を射出した。

 光弾を身体を回すことで避け、剣を振るう。

 直撃コース。喰らえばひとたまりも無いだろう。

 剣が衝突する。しかし――。


「えっ!?」

「スイーパパパパッ」


 甲高い音が鳴るが全く効いていない。


「スイーパパッ!」

「くっ!」


 横に薙がれた腕を避け、二度跳躍して距離をとり、自分の握る剣と人型掃除機を交互に見た。


「どんな硬さしてるのよっ」

「スイーパッ!!」


 人型掃除機はアザレアを敵と認識したのかザコイヤーを出すのをやめ、両手から光弾を放ち始めた。

 アザレアは避けながら走り、剣に魔力籠めて斬撃を飛ばす。

 これも人型掃除機に直撃するがこちらも効果が無い。

 舌打ちを鳴らし、再び接近。

 今度は魔力を剣に流し、何度も斬りかかる。

 足、首、身体を回して胴。

 打撃を紙一重で避けながら攻撃を叩き込む。

 それでも人型掃除機に傷をつけられない。


「どうしてっ!?」

「スイーパパパパッ!!」

「っ!?」


 人型掃除機は頭に巻かれれていたコンセントのケーブルが伸び、アザレアに巻き付く。

 身体を縛り付けられ、そのまま持ち上げられた。


「くっ!」


 人型掃除機はアザレアに両手を向ける。

 その手には光が集められていた。

 この攻撃はまずいと直感したアザレアは必死に抜け出そうとするが抜け出せない。


「スイーパパパパッ!!!」

「まずっ」


 光弾が放たれる。


『チャンストライクッ!!』


 聞き覚えのある電子音が聞こえ、同時に人型掃除機に何かが衝突して吹き飛ばされる。

 縛られたアザレアも一緒に連れてかれそうになったが、寸前で抱えられた。


「無事か?」

「コウキさん!」


 アザレアを助けたのはチャンスターに変身したコウキだった。


「どうしてここに?」

「研究所であれの姿を見てすっ飛んできたんだ」


 コウキは既に武装した足を叩いて言う。


「あの怪物に心当たりが?」

「あぁ、あいつはスイーパー。

 俺の世界にいた怪人だ」

「怪人……あれが」

「とはいえ、必殺技が直撃したんだ。

 もう大丈夫なはず」

「イィィーパッ!!」

「なにっ!?」


 吹き飛ばされた人型掃除機改め怪人スイーパーが二人の前に着地する。

 コウキの攻撃をまともに受けたはずなのに答えている様子が感じられない。


「嘘だろっ!?お前なんでやられてねぇんだ!?」

「スイーパパパパッ!」

「チッ、意思疎通ができねぇってことは再生怪人バージョンかよ」

「どうするの?」

「全力で攻め立てる」


 コウキの隣でアザレアも剣を構えて戦闘態勢を取ってスイーパーを見据える。


「でも私の攻撃は効かなかったわ」

「それはシンプルにスペック差だろ。

 俺の普通のパンチでも軽く仰け反る程度で済ますくらいには硬いんだぜ怪人って」


 コウキの、チャンスターの攻撃力は何度も見ているので知っている。

 ザコイヤーの触手を軽く弾き、サイボーグの身体をへこませたり吹っ飛ばせたりできる。

 軽い手合わせをした際にも、ただのパンチやキックなのにとてつもない衝撃を受けた。

 自動防御機能が無ければ骨が折れるどころじゃなかっただろう。

 その攻撃を耐えられるのが怪人だという。


「それはおそろしいわね」

「でもそれがもっと硬くなってる。

 ちょっと派手に行くぜ」


 コウキはチャンスマホを手に取る、アプリを起動。

 その中のアイコンをタップする。

 変身する時とはまた別の音楽が流れ、チャンスマホをスロットに差し込んだ。


『掴めよチャンス!弾けろスター!

 チャチャチャ、チャンスター・ハンズ!!』


 チャンスター・ハンズ。

 チャンスターの全身が赤く染まり、その腕に二回りも大きなガントレットが装備される攻撃と防御特化形態フォーム

 その力は通常フォームとは比べ物にならないぐらい強力だ。


「前に見せたと思うが、これは動きが少し鈍い。

 必殺技を確実に当てられるようにサポートしてくれ」

「了解」


 アザレアは返事と同時に素早く飛び出した。

 攻撃が効かないならそれを前提として動きを組み立てる。

 全力の攻撃は行わず、余裕を持った距離や力加減で剣を振るい、斬撃を飛ばす。

 先程と効果は変わらないが、攻撃を繰り出し続けるアザレアがうっとおしいのか、スイーパーはアザレアに反撃する。


「避けることに専念すれば攻撃自体は大したこと無いわね」


 懐に潜り込み、光弾を放とうとした腕をかちあげる。

 隙ができた。

 その隙を逃さず、チャンスターは拳を叩き込む。

 衝撃がアザレアの全身まで響いた。


「もっぱつ!!」


 更に一撃を叩き込む。

 それを起点とし、何度も殴打を繰り返した。


「アザレア!チャンスマホの操作頼む!」

「はぁ!?」

「手が離せねぇの!!操作は前に見せたから分かるだろ!」

「無茶言うわね!」


 殴打の衝撃を感じながらスロットに刺されているチャンスマホと素早く取り出し、画面を操作する。

 操作方法は手合わせしたときに見せてもらえていたので問題なくできた。

 完了して再びスロットに差し込み、後ろに離れた。


『チャンスタイム!!』

「ワンチャン、掴んだぜ!」


 左手でスイーパーを掴むと、右腕のガントレットの肘からまるでロケットのエンジンのように炎が噴き出す。


『チャンスマッシュ!!』

「おらぁぁぁ!!」


 何者も粉砕する一撃が放たれ、スイーパーの身体を捕らえる。

 攻撃の余波で建物のガラスが割れ、スイーパーは吹き飛ばされた。

 そのまま建物の一部に衝突して瓦礫に潰される。


「やっば!?中に人!」

「大丈夫、あの建物には誰もいなかったわ」

「ほ、ほんとに?」

「まぁ、蹴りであれだけ吹っ飛ぶんだからそれくらいの誘導はね」

「た、助かる……」

「とはいえ、まだ人がいる建物もあるから早く避難させないと」

「まじかっ、じゃあ早く倒せてよかったな」

「どういうこと?」


 コウキはスイーパーについて語る。


「元々あいつはゴミを吸って力に変えたりザコ兵を生み出したりする怪人だったんだが、あいつの最終形態は人の生命力を吸って力を得てたんだ」

「それはっ」


 それを聞いて戦っている最中に床に倒れていた人たちを思い出す。


「今回はその最終形態で現れてたからだいぶ焦った。

 ザコイヤーを生み出していたのはその能力を使っていたから……だと思うんだが」

「どうしたの?」

「なんで俺たちのザコ兵じゃなくてこっちのザコイヤーを生み出してたのかが分からない」

「……貴方がわからなければ怪人のことは誰もわからないわよ」

「んー、これらは博士に調べてもらうしかないか」


 コウキは片方のガントレットを光に変えて外し、チャンスマホを手に取って変身を解こうとする。

 その時だった。


「スイィィィーパパパパァァァァ!!」

「「!?」」


 瓦礫が吹き飛び、その中から倒したはずのスイーパーが現れる。

 コウキの攻撃を受けてなお、スイーパーは動いていた。

 それも最初と同じように。


「嘘だろ!?ハンズの一撃だぞ!?

 流石に怪人でもあそこまでの防御力も耐久力もねぇ……っ!?」


 コウキの脳裏にある光景がフラッシュバックする。

 それはコウキがこの世界に来て初めての戦闘。

 必殺技を放っても倒せなかったザコイヤーの姿。

 まさか。まさかまさかとコウキは考える。

 同時にチャンスターに着信が入った。

 それはポケトピッチからのものだった。

 コウキはその着信に素早く出る。


「博士っ!こいつまさか!」

『あぁ、私たちもそれ気にづいた!

 君が怪人と呼ぶそれは!』


 二人の考えが一致する。


『ザコイヤーと同じ反応をしている!』

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