第8話  ワンチャンス

「やっぱりか……」

『あぁ、つまりその怪人には君の攻撃は効かない」

「アレを倒せる魔法少女はいないのか?」

『他の地域から要請しているが、正直それに対抗できる魔法少女は近辺にいない』

「そんな……」


 アザレアつつじも通信を受信していたのか、この会話を効いて真っ青になる。


「スイーパパパパ!!」

「あーくそっ!またザコイヤーを出しやがった!

 とりあえずアレを掃除するぞ!」


 コウキはチャンスマホを再び操作。

 新たなアイコンを選択し、スロットに差し込む。


『斬り開けチャンス!進めよスター!

 チャチャチャ、チャンスター・スラッシュ!!』


 チャンスター・スラッシュ。

 全身が青く染まり、左腰に剣が装備される速度と範囲攻撃特化形態フォーム

 コウキは剣を手に取り、前に進む。

 凄まじい速度で飛び散る多くのザコイヤーを斬りつけて一か所に纏める。


「アザレア!」

「はっ!」


 纏まったザコイヤーをアザレアが斬撃を飛ばしまとめて消滅させる。

 そしてコウキとアザレアはスイーパーに斬りかかった。


「攻撃が効かねぇつっても敵の数が増やされるのは困るからな!」


 二人が協力して何度も斬撃を叩き込むことによってスイーパーの動きを阻害する。

 なんとかザコイヤーを新たに出現させずにできているが、やはりダメージは入らない。


「博士!何とかならないか!」

『……あるにはある』

「あるのか!?」

『さっき話しただろう。

 君がザコイヤーを倒せるように取り組んでいると』

「っ!!それが!?」

『チャンスターで使えるようにシステムは組んでいるんだ。

 ただそれは未完成。使える保証はない』

「ワンチャンあるならやるぜ!

 どうすればそれを使える!?」

『君のチャンスマホにデータを送信する。

 だが、データをインストールする為には一度変身を解かなければならない』

「まじかっ!」


 現状、スイーパーを留めておけるのはコウキだけ。

 ただでさえギリギリの状況だというのに変身を解いたら再びスイーパーは暴れ始め、周囲に大きな被害を及ぼすだろう。

 しかし、このままではコウキの限界が先。

 どう打開するか必死に頭を動かしているとアザレアが声を上げた。


「私が時間を稼ぐ!」

「ムリだろ!」

「さっき私が隙を作った時に見てたでしょ!

 時間を稼ぐだけなら私でもできるわ!」

「でもどれくらいかかるかわかんねぇんだぞ!?」

「それでも!」


 アザレア力強く言葉で、その瞳で意思を伝える。

 思わずコウキは息を飲んだ。


「私はこの街を守る魔法少女だから!!」

「~っ!!わかった!!任せる!」

「任された!」


 アザレアと位置を交代し、後ろに跳ぶ。

 スロットからチャンスマホを抜き、変身を解いた。


「送ってくれ!」

『もう送っている!』


 そう言われてチャンスマホを見るとインストール状況を示すバーが表示されていた。

 コウキはひたすらに早く進むことを祈る。


「はやくはやくはやく!」


 チャンスは、まだ届かない。


 ■


 アザレアは時間稼ぎの為に再び一人でスイーパーと対峙する。

 剣を振り、振るわれる腕を避け、時折伸ばされるケーブルに拘束されないよう立ち回る。

 周囲の被害も考えながら戦い続けるのはとても神経や体力を消費させていた。

 だが弱音を吐かず、強い眼差しを向ける。

 コウキか離れてからどれだけたったのか。


「わからないけれどっ!」


 剣に魔力を籠め、至近距離で斬撃と共にスイーパーを吹っ飛ばす。

 大きく息を吸い込み、鼓動が早くなっていた心臓を落ち着かせる。


「私の役目を全うするだけよ」


 魔法少女として。

 アザレアはスイーパーに立ちふさがる。

 スイーパーはゆらりと身体を揺らし、片手をアザレアに向けた。


「光弾なんて当たるわけ」


 飛んでくるであろう攻撃を予測して走ろうとした瞬間、全身から力が抜ける。


「!?」


 何が起きたのかわからずに困惑していると風が前に流れ始めているのを感じ、前を見ると周囲の空気がスイーパーの片手に吸い込まれている。

 その中には空気だけではなく、魔力も混ぜ込まれていた。


「ま、さか……!?」


 アザレアはコウキが言っていたことを思い出した。


「あいつの最終形態はを吸って力を得てたんだ」


 つまり今、スイーパーは

 スイーパーはまるで笑い声のような声をあげ、その身体を膨らませた。

 このままではまずいと直感し斬撃を飛ばそうとするがそれより早く身体にケーブルが巻き付かれ、強引に引き寄せられる。

 そのままケーブルの上から腹部を殴られた。


「かっ!?」

「スイー……パッ!!」


 強力な攻撃がまた一撃、それまた一撃と容赦なくアザレアに入る。

 魔力を身体に回し、何とか攻撃を防ごうとするがそれほほぼ意味をなさなかった。

 やがて魔力が限界まで奪われ変身が強制的に解除された。

 変身していたことにより耐えられたケーブルの締め付けが更に強くなり、つつじを苦しめる。

 スイーパーが手を向け、光が収縮する。

 それは生身の人間が受ければどうなるか容易に想像できた。


「最悪……」


 せめてもの抵抗に身をよじらせるが意味をなさない。

 自然と涙がこぼれた。

 死ぬことの恐怖ではなく、ここで何もできない悔しさに。


「ごめん、みんな」


 つつじが顔を伏せ、光弾が発射される。

 その時、スイーパーが構えていた手が上に弾かれた。


「パッ!?」

「しゃぁ!!」


 スイーパーは動揺して動きが固まったところに誰かの一撃が入った。

 ケーブルが緩み、地面に落ちる。

 不安定ながらも着地し、何事だと顔を上げるとそこには変身していないコウキがいた。


「こ、コウキさん?」

「悪い!待たせた!」

「……いま生身で怪人蹴っ飛ばしてませんでした?」

「俺、生身でもそれなりに戦えんだよ。

 それより、間に合ったぜ」


 コウキはチャンスマホの画面を見せる。

 そこにはバーが貯まり、インストールを終わらせたことを知らせていた。


「でもちゃんと使えるかわからないんですよね」

「大丈夫。こういうピンチの時は大体成功するんだ。

 ピンチはチャンスっていうだろ?」

「ふ、不安!」


 コウキはチャンスマホを操作し、変身アプリに追加された新たなアイコンをタップする。

 若干のノイズが流れた後、チャンスマホから音声が流れる。


『マジカライズ!』


 変身してた時や形態を変えていた時とはまた違う音楽が流れ始め、構えを取る。

 それを妨害しようとスイーパーが攻撃を繰り出すが、それより前にスロットにチャンスマホが差し込まれた。


「変身!」


 掛け声と同時に爆発。

 煙が立ち込め、その場を埋め尽くす。

 数秒の静寂のあと、その中から光があふれ出した。


『生み出せチャンス!輝くスター!

 チャチャチャ、チャンスター・マジカル!』


 歌が流れ、煙が晴れ始める。


「よし!成功だ!

 やったぜ博士!」


 煙の中から聞こえるのは明るく、嬉しそうな声。

 その声の後ろからつつじが唖然とした表情でその声の主を見る。


「サンキューつつじ。

 これでアイツと戦え……どうしたそんな顔をして?」


 つつじはその声の主が誰かを理解し、近くに落ちている車のサイドミラーを手に取った。


「あの、これを」

「なんでサイドミラー?」


 声の主はサイドミラーを覗き込むように見る。


「ほうほう、これはなかなかの美少女。

 うん、なんか装いがチャンスターに似てるな」


 ソレはうんうんと頷いた後、うん?と首を傾げて自分の顔をべたべた触る。


「アレ?俺の顔なんでむき出しなんだ?

 というかなんか視界が低い?それになんか声も変だ」

「あの、さん」

「なんだよ」


 が答える。

 つつじはとても言いにくそうにサイドミラーを指差し、その後美少女に指を向けた。


「これアナタです」


 そう言われた美少女は全身をぐるりと見て、腕や足を触る。

 やがてゆっくりと顔を上げ、信じられないという表情に変わった。


「うっそ~ん……」


 コウキは美少女に変身していた。


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