第9話 チャンスター・マジカル又は魔法少女チャンスター
「どうなってんだよこれぇ!!」
『どうやら、エネルギーを変換させた影響が変身時にも出たようだね……』
「まるっと肉体も変わってるんだけど!
チャンスターは肉体変化系の変身じゃないんだけど!」
コウキが全力でポケトピッチに叫ぶ。
チャンスター・マジカルになったコウキは紛れもなく、自他認める美少女の姿をしていた。
身長も手足の長さも変わっており、ぱっと見十代の少女に見える。
所々に元のチャンスターの装いが残っているが、他の人が見ればコスプレイヤー、もしくは。
『差し詰め、魔法少女チャンスターってところだろうか』
「本気で言ってる!?」
若干笑い声が含まれた言葉に
そんなコントじみたやり取りをしている中、チャンスターに向かってスイーパーが襲い掛かってきた。
「コウキさん!」
つつじの悲鳴に近い声を聞いてチャンスターは回し蹴りを放つ。
蹴りはスイーパーの身体を捕らえ、派手な音と共にスイーパーがきりもみ回転をしながら吹き飛んだ。
地面に落ちたスイーパーは何が起きたのか理解できずに身体を震わせながら蹴られた部分を擦る。
チャンスターは自身の攻撃に確かな手ごたえ、いや蹴りごたえをしっかりと感じ、この変身が今までと違うことを理解した。
「効果があるのは、間違いないようだな」
チャンスマホを操作し、武装を呼び出す。
呼び出されたのは通常フォームと同じように足に追加の装甲が装備される。
「基本は通常フォームと同じか?
とりあえずは戦い方はいつも通りだな」
つま先をトントンと下に突いて調子を確かめているとスイーパーは立ち上がり、怒り狂ったように攻撃をばら撒き始めた。
チャンスターはしっかりと踏みしめて撥ねる様に飛び出し、せまりくる光弾の嵐を弾き、伸ばされたケーブルを避け、懐に入る。
頭や腹を何度も殴打し、最後に力を籠めた拳を入れてよろめかせる。
スイーパーが反撃に手を向け、力を吸い取ろうとするがその前にその手を掴み、その身を引き寄せて膝を入れた。
「パッ!?」
「その手は見飽きてるんだ」
一呼吸の溜めを作り、力いっぱいスイーパーを蹴り上げる。
「コッパッ!」
「これでトドメだ」
『チャンスタイム!』
チャンスマホから音声が鳴り響き、チャンスターが建物の壁面を何度も跳躍してスイーパーを追い越し、その真上まで辿り着くとピタリと動きを止めた。
背中に大きな魔方陣が展開され、それを足場に真下に再度跳躍。
体勢を変え、右足を突き出した突進。
スイーパーはそれを避けることはできず、その身に強力な攻撃が入った。
「ワンチャン、創ったぜ!」
『マジカル・チャンストライク!!!』
チャンスターの一撃でスイーパーは爆散。
悲鳴と共にその身を消滅させた。
チャンスターは爆風を背に着地し、上を見上げてスイーパーが消えたことをその目で確認すると大きく深呼吸。
「終わったー!!!」
今度こそ倒せたと。
その気持ちを声に出して喜んだ。
両手いっぱい上げて叫んでいるとその元につつじが駆け寄ってきた。
「やったわね!」
「うん、やった。
つつじは大丈夫か?」
「えぇ、ちょっと負傷はしているけれど問題ないわ」
「そっか……。
悪いな、危ない役目をさせちまって」
「気にしないで。
私が言い出したことだもの」
「強いなお前」
「ありがとう。
じゃ、救助隊を待ってる間に建物に残っている人を外に運びましょう。
さっきの怪人のせいで動けない人がいるみたいだし」
「そうだな」
つつじの提案を受け入れ、チャンスターは変身を解こうとチャンスマホをスロットから取り出して画面を操作する。
「?」
何度も画面をタップし、変身を解除しようとするが反応がない。
「???」
「どうしたの?」
「ちょ、ちょ~っとまってねぇ」
すごい勢いで何度も連打するが変身が解除されない。
「も、元に戻れない……?」
「えっ」
「うおぉぉぉ!!博士博士ー!!!!」
チャンスターは本気で泣きながらチャンスマホでポケトピッチに連絡した。
■
チャンスターが戦っていたその近く。
一番高いビルの屋上に黒い少女がそれを見下ろす。
「あれが例のチャンスターですか。
どうやら話と違って可愛らしくなってますけど」
少女は耳に手を当てて誰かと連絡を取っていた。
「えぇ、今回の実験は成功ですね。
次の実験は……はい、わかりました」
少女は薄く笑う。
連絡が終わったのか、少女は耳から手を離した。
「せいぜい利用させてもらうわ。
異世界の戦士さん」
少女が振り返り、コツコツと足音を鳴らして歩く。
同時に屋上に繋がるドアが開いた。
「屋上は誰もいないみたいね」
つつじが屋上に入り、周りを見る。
屋上には既に誰もおらず、小さな羽根が一枚落ちているだけ。
その羽根も風に吹かれて空に消えていった。
☆
「戻れてよかったぁ~!!!」
コウキは研究所の机に突っ伏していた。
チャンスター・マジカルに変身した後、10分の間変身を解くことができなかった。
調べると変身したら10分間、変身を解くことが出来ず、また再変身にも10分のインターバルが必要になっていることがわかった。
未完成のシステムをインストールした不具合による影響だとポケトピッチは言う。
それは別に横に置いておいていいことだとコウキは考えていた。
もっと頭を悩ませることがあったのだ。
「マジカル以外変身ができなくなってる」
不具合における影響は変身時間だけではなかった。
変身アプリでは通常フォームのアイコンがマジカルフォームに上書きされており、更にハンズやスラッシュのアイコンが文字化けのように表示がおかしなことになっていた。
元のチャンスターに変身することが出来ない。
これはコウキにとって大きな問題だ。
「変身時間の方はまぁなんとかなるだろう。
ただ、元のフォームについてはわからない。
手を尽くしては見るが、あまり期待はできないと考えてくれ」
「そんなぁ……」
「正直、技術が追い付かない。
マジカルフォームは通常フォームをベースになんとかでっち上げられたものだ。
通常フォームが上書きされているのはそのせいだろう」
「じゃあ俺はその……あの姿で戦わないといけないのか?」
思い出すだけで恥ずかしい。
冷静に考えてマジカルフォームの容姿を思い出すと、羞恥心が沸き上がってくる。
あの時は戸惑いや戦いに集中して身体を気にする暇がなかったが、次に変身したらおそらく意識してしまってまともに戦いに臨めるかわからない。
「頼む側で申し訳ないが、そうなるね」
「ぬわぁぁぁ!!!」
「いいじゃない。
可愛かったわよ?魔法少女チャンスター」
「なんにもよかないが!?」
コーヒーを差し出してきたつつじに抗議の視線を送るが全く意味をなさない。
再びコウキは机に突っ伏す。
己のこれからに不安を持ちながら。
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