(一)-3

 一九八〇年代の歌謡曲を歌い終えた歌手が液晶テレビの中で一礼したのを確認すると、渋沢は「よっこらしょ」という小さなかけ声とともに立ち上がった。

 そしてこたつの前に立つ謙吉に「それは冷蔵庫へ入れておこう」とビールの入ったビニール袋を受け取ると、キッチンシンクの隣の冷蔵庫への脚でゆっくり歩いていった。

 「今日も寒いですねえ」とコートを脱いで足元に置くと、謙吉はゆっくり座ってこたつに脚を入れた。

 すると、がに股の渋沢が戻ってきて、部屋の奥の側まできて座り、こたつに入った。


(続く)

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