(二)-7

「いい人じゃねえか」

 渋沢はそう言うと、盛り付けておいた自分の分の小皿にある、ポン酢のかかった春菊を箸でつまむと口に入れた。

「でしょう。夜逃げした後は、どこかでおかみさんと二人で小料理屋開いたそうで。でも去年、店をたたんだとか。もう八〇も過ぎて体もしんどいからって引退したんだそうで。それで貯めていたお金の一部を、当時俺らみたいな中卒で雇われた者たちに配っているんだそうで」

「そんなこともあるんだねえ。六〇年も前の話なのに」


(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る