(四)-4(了)

「俺たちは金の卵ではなく金の卵を産む鶏だったってわけか」

「卵を手に入れる人間にとって、呼び名なんてどっちでもいいことなんだろうよ。自分が卵を手に入れられればな」

 そう言うと、渋沢は箸を持つ手でリモコンを掴み、液晶画面に向けるとボタンを押して画面を消した。

 そうして「よっこらせ」と小さくかけ声を出しながら立ち上がると、渋沢は冷蔵庫の方へノソノソと歩いていった。




 太平洋戦争後から一九七〇年代までの間、義務教育の中学校卒業程度の若年労働者は「金の卵」と呼ばれた。

 彼らは地方から集団就職列車などに乗って都市部で出て就職し、戦後日本の復興および高度経済成長を、現場の最前線で支え続けたのである。


(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

公団住宅の一室にて 筑紫榛名@次回1/19文学フリマ京都9 @HarunaTsukushi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画