第2話

「あの子は、一体、どういった来歴なのだろうな」

 ある日、橋本はしもとは呟いた。それは、私も思っていたことであった。

「顔は、美しい。だから、元からの病ではないはずだ」

「あれは、殺されそうになった子供ではないのか」

 探偵小説を三度の飯よりも愛している級友が言った。

「まさか。いや、しかし。だから、六木むつき君は、成長しないのか」

 級友は、笑った。

「だから、美陰学苑みかげがくえんに避難してきたのだろうよ。ここでの殺人は、世間での殺人より重い罪に問われる。親が親権を放棄した以上、美陰生は、国の所有物だ。親子関係は、存在しない。ましてや、子供を殺したら、極刑なんてことになる」

 陰惨な感情が、胃から這い上がってくる。

「何故、あんな、美しい子供を」

「美しいからさ」

 級友は、簡単に言った。

「子供なんてものは、究極的に、確かな証拠なのだよ。不貞あるいは、もっと不都合な何かのね」

 閑散とした図書室。

「そんなのは、ここにいる生徒全員に言えることだ」橋本は、言った。

「まあね。だが、つまらん。大いに、つまらん話だね。どちらにしろ」

 級友は、読んでいた本を閉じ、退室したのだった。

 橋本は、帰りしな、級友が読んでいた本を確認した。忌々しく、その探偵小説家の名を口にする。こんな物を読んでいるから、性格がひん曲がるのだ。橋本は、大層、ご立腹であった。

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