第十二話 もう一度
「バカね」
「バカだなぁ」
「バカですね」
「うわ~ん!」
お婆ちゃんが作るひじきの煮物の、甘塩っぱい匂いにお腹が刺激されるのをひしひしと感じながら、久しぶりに幼馴染四人が集まったテーブルを、一人掛けの椅子に座って、ぼおっと眺めていた。
四人が話している議題。それはもちろん放課後の、美穂と茶髪先輩のやり取りだ。……いや、議題なんて大げさなものじゃない。これはただ、やらかしてしまった美穂を責める会だ。
「だいたい、美穂は挑発に弱すぎるんだ。もっと心を制してだな」
「うぅ」
「しょうがないよぅ。それが美穂ちゃんだもん。昔はもっと酷かったし」
「うぅ……」
「そうね、昔の美穂さんだったら、つべこべ言わずにその場で勝負に出てましたね。勝てないのに」
「うわ~ん!」
メッタ打ちを受け、大げさに泣き出す美穂。まぁ、あのやり取りに関しては美穂の自業自得なのでフォローするつもりは無かったが、流石に昔の事を言われるのは不憫すぎるな。
「まぁまぁみんな、それぐらいで、さ?」
「そらがそう言うなら」
「か~くん」
「そらくんったら」
「そらぁ~!」
三人が「はぁ」と呆れた声を上げた。
そんな中、子犬が親犬を見るみたいな目で僕を見る美穂。尻尾があったのなら、ちぎれんばかりにブンブン振っているな、これは。
「そもそも、一番の原因は僕なんだ。僕がもっとしっかりしていれば、こんな事にはならなかったんだよ。ごめん、美穂」
「そら……」
椅子から立ち上がってテーブルに近寄り、美穂に頭を下げる。今言った様に、原因は僕なのだ。美穂に非は無い。
「こほん。とはいえ、一度約束をしてしまったのだろう? その松本先輩とやらと。話を聞いた限りだと、一度交わした約束を反故にしても、怒らない人だとは思えないのだが?」
「うっ?!」
「そうだねぇ。約束は守らないといけないって、小さい子でも知っているよねぇ」
「うぅ!?」
「例え原因がそらくんにあったとしても、そんな約束をしてしまったのですから、やはり美穂が悪いかと」
「ううっ!?」
ガックリと肩を落とす美穂。そう、問題はそこなのだ。
あの茶髪先輩が、一度かわした約束を無かったことにしてくれるとは思えないのだ。しかも、状況を鑑みても、条件的にはあの茶髪先輩の方が有利な状況で。
そんな状況で、「やっぱり無かったことにしたいんです。済みません」なんて謝ったが最後、「「なら、お前らの負けだよな?」って言うに決まっている。
「そもそも、そらはどうなんだ? 実際に、勝負するつもりはあるのか?」
玲奈が訊いてきた。確かに、勝負に勝てば文句は無い。無いのだが──。
「う~ん、いまいち音楽で勝負!っていう意味が解らないだよね。そもそも、突っかかっていった美穂が、『僕の方が松本先輩より凄い!』『なら文化祭で勝負しろ!』だけだったし」
「その勝負の内容とは、どういったものなんですか?」
愛花が尋ねてくる。玲奈と琴音も、それを聞きたいと体を寄せてきた。
「それが、演奏で対決するみたい」
「演奏で対決、ですか?」
「そう。僕もあまり詳しくは聞いてないんだけど、なんでも文化祭じゃあ、二年生と一年生だけが演奏するみたい。それを三年生が採点するんだって。それに観客の反応も加点して、順位を決めるみたいだよ」
「ほう、それは面白いな」
うんうん頷く玲奈。他人事だから面白いんじゃないの?とは間違っても言わない。
「そうなんだ~。それにしても、何で軽音部の一年生は、か~くんしか居ないんだろうねぇ?」
「たしかにそうね!」
琴音が人差し指を口に当てながら言った質問に、美穂がハッとした。普段ぼうっとしている琴音だが、たまに核心を突くことを言うんだよな。
「ほんと、なんでだろ?」
「そらも知らないのか?」
「うん。気にもしてなかったよ。けど、言われてみれば、確かに気になるね」
うーんと腕を組む。
うちの高校は、部活への入部は、基本的に自由だ。でも大半の生徒は、何らかの部活か生徒会に参加している。
そう考えると、僕一人しか入部していない軽音部は、あからさまに人数が少なすぎる。
「なら、その辺りを明日訊いてみましょう。もし原因があるのでしたら、それを解決する事さえ出来れば、今回の真の問題である人数不足という問題も、無事に解決に繋がりますし」
愛花が手をパンと叩いた。
その言葉で、美穂への反省会はお開きとなった。
だけど、肝心な解決に至らず、僕の胸に重りが残った。
虹に奏でる絆の音 世越 よま @menphis
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