第三話 僕の入る部活はね……



「じゃあ、今日までに仮入部届を各部活担任に提出する事。以上だ」

「起立~」



 担任の先生がそう締めくくると、当番日直の号令で、今日の学校は終わりになった。



「んで、お前どうすんの?」

「え、俺? 俺はバスケ。お前は──」

「私、美術部にしようかなあって」

「いいね、それ。絵、上手かったもんね」



 ホームルームの終わった教室のあちこちで、クラスメイトが見学先の部活について、わいのきゃいのと話しあっているなか、そっと教室を出る。


 と、廊下には、先に終わったのか、黒髪ロングの女子生徒──黒崎琴音──が、お気に入りのマスコットを付けたバックを前手に持ち、僕の事を待っていた。



「あ~、か~くんお疲れぇ♪」

「お疲れ。ってか、待っててくれたのか?」

「うん、一緒に部活を見に行こうかなぁって~」



 そう言ってニコパっと笑う琴音。その横を通り過ぎた男子生徒が、チラチラと琴音を見る。うん、その気持ち解る。琴音はかなり美少女だから。

 僕も小さい頃から一緒じゃなかったら、見惚れてしまったかもしれない。まぁ、お互いおねしょした布団を見せ合った仲なので、今更そんな気も起きそうに無いけどね。



「ん? なに、か~くん?」

「いや、なんでもないよ。それより他の三人は?」



 他の三人とは他でもない。赤井美穂と青山玲奈、そして金城愛花の事だ。



 すると琴音は「う~ん」と腕を組んだ。



「美穂ちゃんと玲奈ちゃんのクラスはまだ終わってなくて、愛花ちゃんは他の子に捕まっているみたい~」

「あ~、そうか……」



 琴音が言った事に納得した。

 美穂と玲奈はともかく、愛花はまた捕まってしまったのか。大変だな、お人形さんみたいなあの美貌というのは……。



 すると琴音が僕の腕に自分の腕を絡めて、グイっと引っ張る。



「だからね、先に私と行っちゃおうよぉ?」

「そ、そうだな」



 ポヨンと腕に当たる柔らかい感触にドギマギしながら、いやいや相手は琴音だぞと自分に言い聞かせながら、その琴音に引っ張られるままに、教室を後にした。




  ◇





「それで琴音はどこにするか決めたのか?」



 夕方と呼ぶにはまだ早い時間。部活へと向かう生徒とすれ違いながら、ぐいぐいと腕を引っ張る琴音に質問する。


 と、ピタっと止まった琴音が振り向く。その顔は確実に困っていた。



「え、全然だよぉ?」

「じゃあ、今僕らはどこに向かっているのかな?」

「ん~、知らない?」

「おいっ!」



 流石にどこに向かうか解らずに、僕の腕を引っ張っていた事に呆れた。



「琴音は入りたい部活とか無いのか?」

「ん~……」



 僕の質問に、腕を組んでウンウン考える。そして出した答えが、



「無いよぉ」

「そっか」



 はぁと肩を落とし溜息を吐く。



「んもぅ、そんな顔をしないでよぉ。そういうか~くんは決めたの~?」

「え、僕?」

「そう、か~くん」



 プクっと頬を膨らませた琴音が、上目使いで睨む。その可愛らしい抗議に笑いそうになりながら、ぐいっと琴音の手を引っ張る。



「え、え、え! ちょ、ちょっとか~くん!?」



 琴音にしては珍しく慌てた声を出す。それを無視して繋いだ手を引いた。



「僕の入りたい部活はね──」



 そう言って、琴音を連れ立って校舎を歩く。そして特別棟の一室の前に立つと、



「僕はね、ここに入る事にするよ」

「……え、ここって……?」



 琴音が目を見開いた。




 その部屋の上にあるプレート。そこには、【軽音楽部】の文字が、カラフルな色で書かれていた……。



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