異世界常識知らず、のんびり旅をする
葎璃蓮
プロローグ
薄暗い城らしき場所は見るも無惨に破壊されていた。
本来ならばそこには立派な玉座があふはずなのだが、周りには見当たらなかった。
死屍累々と積み上がった異形の骸。
天井は既に落ち、月と星の明かりだけが2人を照らしていた。
「なぜだ?」
片方の……対峙している人物の3倍はあろう巨大な体躯を持った魔物の王が言葉を発した。
「なぜ、関係のないお前が我らを屠るのか……」
「……」
その問いに相手は答えない。
いや、答えを持ち合わせていないのだろうか。
魔物の王は群れのひとつからここまで実力でのし上がっていた。
オークという種族の出ではあるが、抜きん出て頭が良かったからか、オークウォーリアやキャプテンオーク、サージェントからジェネラル、そしてアベンジャーからキングへ変異して行き、種から解き放たれて魔物全体の王へと成ったのだ。
無論、武勇もあれば魔法耐性もある。
しかしそれらは目の前の人物には何の障害にもならなかった。
異世界より召喚された勇者と呼ばれる存在。
魔物が数を増やし、自分のような存在が出現する度に現れる世界の……神より使わされた抑止力。
幾度となく勇者という存在に消されてきたのを魔物の王は『識って』いる。
魔物の王とはその歴代の記憶を継承して行くのだから。
「貴方を倒すの事に躊躇いがないとは言いません」
これまで一言も発していなかった勇者が鈴のような声色で言を紡ぐ。
今回の勇者は少女の様だった。
「私、貴方を倒したら勇者はお役御免になって無職になるんですよ」
「⋯⋯は?」
「かと言って倒さないと契約不履行になるので申し訳ないのですが倒されて下さい」
「……」
魔物の王は黙るしか無かった。
この状況下にいて職の心配をしている勇者など、過去に一度も居なかった。
「はぁ……。今回も我らの負けか」
「そのようです」
「いつかは……勝てるのか?」
「私ではなんとも」
そうか……。
そのセリフを最後に、魔物の王は首を刎ねられ、その存在に終焉を迎えた。
またいつか、同じように力を得た魔物が王となるだろう。
それを倒すのはもう少女の役割では無い。
たった今勇者という職を全うし、その座を辞したのだから。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
よく晴れた空だった。
見渡す限りでは雲ひとつなく、レイリー散乱と空気中に不純物が無いおかげで澄み切って彩度高めの青空だ。
「いい天気だねぇ。ココネ」
「そうですね、漣君」
のんびりと、少女と少年は言葉を交わす。
傍から見れば似てはいないが仲の良い姉弟のようにも見えた。
ただ、その会話をしているのは大空の中で、2人は地上に落ちてきている最中でのことだ。
「うーん。このままいくと地上に汚いペイントをしてしまいますな?ココネさん」
「そうですね。おうちから追い出された数秒後に、2人揃って大地の染みになるのはセイラン君も困るでしょうね」
「そうなんだよねぇ」
降下中の風が強くて風魔法で結界を張っているおかげで幾分かは落下速度は落ちているものの、それでもあと数十秒で地上だ。
「漣君、漣君。あれ行きましょう、あれ」
「あれですか。ココネも好きだなー」
「ハマってましたからね!」
ささ、おひとつどうぞ、とココネは漣を促し、漣はひとつ咳払いをして大きな声でこう言った。
「ココネ!着地頼んだ!」
「承知!」
漣の言葉にココネは漣を空中で抱き寄せると、地上との間に何層もの魔法陣を展開させ、徐々に落下速度を落としていき……。
「はい、地上に着きましたよ、漣君」
「ありがとう、ココネ」
ちょこん、と2人は大地に降り立ったのであった。
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