第5話★かでんはたたけばなおるのです

 クシャートは改めて、二人に娘を救ってほしい、と頭を下げた。


「大丈夫ですよ。原因は魔力切れによりセーフモード……というかスリープモードになっているだけですから」

「そうなのですか?」

「本来であれば大気中に拡散された微量の魔力を増幅して動力にするんですが、その機関が破損しているので充分な動力が得られず、消費していくだけだったから限界が来たのでしょうね。人間でいう所の、栄養不足です」


 ココネの言葉に、クシャートは頷いた。


「ではその機関を修復するので、出て行ってもらっても?」

「あ、はい。隣の居間にいますので、何かあれば声をかけてください」

「わかりました。では……」


 クシャートを部屋から出すと、ココネは寝ているシェラの毛布と取り去り、うつ伏せに寝かし直した。


「漣君、全属性魔石持ってませんか?できれば全部Sランク相当の」

「あるよ。ちょっと待ってね?全属性っていう事は、地火風水光闇?気と幻と空間は?」

「あればぜひ」

「空間はあるから気と幻は今作るね」

「お願いします」


 漣は魔法鞄マジックバッグから直系5㎝の澄んだ宝石の様な魔石を取り出した。

 Sランクの魔石は純度が高く、色が澄んで透明度が高い。

 ランクが下がるにつれ濁っていくので、スライムやゴブリンなどの最下級魔石はほぼ黒に近い。

 そして属性。

 この世界の属性は地火風水光闇の6種だが、気と幻と空間の属性もある。

 気は物理、幻は精神、空間は時間属性となるが、使用できるスキルを持った者は稀にしかいない。

 魔法鞄マジックバッグはこの内の空間属性魔法と魔石を用いて作られるので、作り手が少ない上にダンジョン産しかないので値段も高くなる、という事だ。


「はい、無属性……空魔石も込みで10種」

「ありがとうございます」


 ココネはうつ伏せにしたシェラの服をたくし上げ、背中を露わにすると、属性を対にする配置に置き始めた。

 火↔水、地↔風、光↔闇、気↔幻、空間↔無、と円形に配置した。


「ここに魔力を通して一度全身に魔力を行き渡らせた後、破損した機関を修復、その上でバージョンアップもさせておきましょう」

「自己修復機能も付けた方がいいんじゃない?」

「そうですね」


 と、二人はあれやこれやと話し合いながらも、シェラを直していくのだった。



 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼



「……あれ?ここは」


 ましろの少女……シェラは瞳に移った場所が一瞬解らなかった。

 自分は確か、村のマンマたちと一緒に共同カマドでパンを焼いていたはずだ。


「目が覚めたか?シェラ。私がわかるかい?」


 クシャートがそう声を掛けると、シェラは視線を動かして確認すると、小さく頷いた。


「パパ……私は……どうしたの?」

「お前は倒れてずっと眠っていたんだよ。それをこの方たちが治してくれたんだ」


 クシャートは涙を流しながらシェラを抱きしめて頭をなでると、体をずらして漣とココネを紹介した。


「流れの商人さんとメイドさんだそうだ」

「ながれの……」


 シェラがじっと二人を見た瞬間、ビクリと体が震えた。


「まさか、ゆっ!……ふぎゃん!」

「それ以上はいけない」


 何かを言いかけたシェラにすかさず手刀を叩き込んだココネに、クシャートは目を白黒させた。


「ココネさん!? シェラになにを……」

「おばぁちゃんは言っていた。家電は斜め四十五度で叩くと直ると」

「カデン??」

「それはともかく。シェラちゃん。私はココネと申します。こちらにいる行商人である漣君の専属メイドですので、

「ひゃ、ひゃい……シェラでしゅ……よろしくおねがいします」

「漣です。なりたて商人として修行の旅にでてます」


 ……嘘は言っていないのだ。

 ココネは現在、漣の専属メイドであるし、漣は行商を始めてすらいない。

 嘘は言っていないのだ、方便であるだけで。


「シェラ、お前の事をお二人から聞いたのだが」

「……はい」

「お前の体が正常に戻ったからこそ、聞きたいのだ。お前は


 クシャートの言葉に、シェラは言葉につまり、それから二人をみる。


「好きにしていいんですよ? もうお役目も終わりましたし、人生のボーナスステージとして考えていいのです」

「それに色々とバージョンアップしておいたので、今後500年くらいは問題ないよ」

「ごひゃくねん……」


 シェラは少し考えた後に、クシャートに向かってこう言った。


「私は天に帰りません。この地上で暮らしたい。それに、漣様とココネ様のお役に立ちたいと思います」


 と。

 その言葉に三人は、うんうんと頷いた。




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