第3話★むらついたよ
てくてくとのんびりのんびり歩いた先にはさびれた村がひとおつ。
村の外周をくるっと囲む、心許ない手作りの柵はウルフが10匹徒党を組んだだけで破壊されそうだった。
「……寒村ってあったからどんなものかと思ったら……」
「これは危ういですね。防護面でも……」
漣とココネがたどり着いたナザール村は家屋こそ数はあるが、密集せずに間隔があいてバラバラに建っているせいか、寂れた雰囲気を加速させていた。
唯一の出入り口だろう門モハイエルフであれば手を伸ばしたら届くくらいの高さだし、ナザール村の看板の文字がかすれてよく読めない。
「……誰もいない?」
「普通なら一人は物見がいますよね……でも……」
ココネがつい、と視線を向けた先には物見櫓だっただろう跡があるだけだった。
たしかに自給自足メインのようだし、訪れる者もほぼ無い村などこんな感じなのだろうか、と二人は逡巡する。
「とりあえず入ってみる?」
「そうですね。どこかで少しだけ休ませてもらって食事代だけでも落としていきましょう」
「そうだね。現地でお金落すのは大切なことだしね」
うんうん、と頷いてから門をくぐった瞬間、門から一番近い家から槍を持った赤い髪のおじさんがやってきた。
丁度食事中だったようで、口元はまだもぐもぐしていたので、二人は終わるまで大人しく待つことにした。
ようやくごくんという音と共に飲み込んだおじさんは、バツが悪そうに笑った後、ちょっと真面目な顔をした。
「あー、お前ら何の用でこの村に?」
「旅の行商人でっす!」
「専属メイドです!」
とりあえず、初手から錬金術師と言われてもレアジョブなので解りづらいのでは?となった漣は最初は旅の商人という事にして、錬金術も嗜むよ!という路線に変更したのだ。
「なんと!商人さんか!なぁ、なら薬はあるか!?」
商人、という言葉に反応したおじさん……エッゾは慌てたように問いかけてきた。
「はい、一応熱さまし程度であれば作る事も出来ますが……病人ですか?」
「ああ、もう半年前から村長さんの所の娘さんが熱を出して起き上がれなくてな。俺の家は門にも近く、街道を見渡せる位置にあるから冒険者や行商隊が通るたびに声をかけているんだ」
物見櫓は倒壊して久しいらしく、こんな辺鄙な村を襲う者もいないと踏んでの役職を頼まれたようだ。
「半年も……それはお辛い……」
「ああ、病に伏す前はこの村の為に一生懸命働いてくれた子でな。村人全員が心配してるんだ」
「では、その村長さんの家にご案内お願いできますか?あ、僕らこういうものです」
と、二人が見せたのは冒険者カードだった。
一応自国で発行してもらったので全国共通のはずだ。
ランクはCという事で、可もなく不可もなくある程度の自主討伐も可能なランクという事でCにしてもらったのだ。
本来であればココネも漣もSクラスなのだが、その場合国からの依頼が来てしまうので回避した結果だ。
「Cランクか。その年ですごいな」
「なりたてですけれどね。あと錬金術もやっているので一応薬草知識はありますよ」
「本当か!?ではこっちだ。ついてきてくれ」
エッゾは二人を村の中心にある他の家よりもちょっと大きいかな?程度の家に案内すると、ドアを叩いた。
「村長!エッゾだ!旅の行商人を案内してきた!薬を持っているようだ。メイリンを診させてやってくれ」
その言葉に中からガタンという音が聞こえ、勢いよく扉があいた。
中から出てきたのは60歳くらいの老人で、琥珀色の瞳は驚きに見開いていた。
「本当に……。本当に……薬が……?」
「はい。僕は錬金術師でもあるので製薬もできますよ。こちらはココネといいまして、僕専属のメイドです」
「おお……!ではこちらへ!」
村長は漣の手を引くと奥の部屋に案内した。
余程娘を愛しているのだろう、その手に力が入っていた。
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