平安初期に活躍した実在の人物である、小野篁を主人公とした作品です。三部作の内の第一部となり、私は第二部から拝読しておりますがとても楽しめました。
平安時代といえば安倍晴明と思いがちですが、何故この方はそんなに知られていないのか……そんな疑問を抱くほど、我々を魅了する小野篁が「これでもか!」と詰まっております。
ファンタジー作品では取り入れがちである〝呪術の豪快なぶつかり合い〟の描写は少ないにもかかわらず、刀の戦いだけでもこんなに迫力ある描写ができるのか! と度肝を抜かれました。お馴染みの最強妖怪である両面宿儺や大嶽丸などとの戦いは圧巻で、その合間に描かれる美しい女性たちとの絡みは胸を打たれます。
とにかく篁氏が男前で、強くて、優しくて! この人物を知らないのは勿体ないです!
二部のレビューでも同じことを書きましたが、あえてもう一度推します。
小野篁の魅力に、皆是非ともハマっていただきたい!!
面白かったです!!
あやかし奇譚でありながら本格的な歴史小説の骨太さもあり、読んでいる間中、平安時代の空気のようなものを感じていました。
歴史アマチュアである自分には平安時代ものというと、恋愛ものかイケメン陰陽師の話かというようなイメージがあったのですが、本作は東征の武将でもあった篁が主人公であり、迫力あるアクションシーンも剣戟が中心です。今まで平安時代には何となく食指が動かなかったという方にも、絶大におすすめできる作品かと思います。(自分は恋愛ものも安倍晴明も好きですが…)
宮中で噂になっている怪談から盗賊や鬼神、篁は色々なものを相手に戦ったり、ちょっとした人助けをしたりします。勇猛な武人でありながら穏やかな篁の人柄も、この物語の大きな魅力の一つだと思います。
実はこの続編のYAKYOを先に読んでしまったのですが、そちらは本作よりさらに歴史ものの色合いが強い長編となっており、本作とはほんの少し趣の違いはありますが、やはりとても面白かったです。
次は三作目のSANGIを拝読しようと思います。
レビューが上手くなく恐縮ですが、とにかく面白いということをお伝えしたいです。
拙文にて失礼いたしました。
平安の京とはいいながら、治安も万全とまではいえず、その闇夜には夜盗も怪異も跋扈していたという、平安時代初期。本作は、冥府にて閻魔大王の片腕を務めていたと噂された男・小野篁の活劇を描いた、和風伝奇アクションだ。
平安時代が舞台といっても、情景や用語がくどくどしくないので、「この時代のことは知識が追いつかないからわからない…」という人も安心して読めると思う。一方、アクションの場面も豪快でありながらさっぱりとした描写で、さくさく読み進めることができる。逆に、何気ない文章の中にそっとただよう穏やかな情緒も、絶妙なバランスとなっている。そんな文体の中から浮かび上がってくる篁の人物描写は、剛直にして繊細、誠実であり、ときにちょっとグチをこぼし…閻魔大王に気に入られるのも無理はない、好人物なのだ。そして篁を囲む人物たちも、それぞれにクセがあって魅力的。誰もが驚くあの人物も、知られていないけれど実在したあの人物も、しっかり登場して篁の活躍を彩ってくれる。
京の悪を、闇の怪異を、篁が愛用の太刀で斬りさばく、必見の剣劇アクション。
続編も執筆中、要注目だ。
小野篁(おのの たかむら)、平安期の歴史人物。朝廷に仕えた官僚である一方、閻魔大王の役人とも言われたいわくつきの男。昼は朝廷に出仕し、夜は閻魔庁につとめていたという伝説は有名です。
この作品は、そんなタカムラの物語。歴史と伝説の入り混じる、怪異ファンタジーです。
とにかくかっこいいタカムラ、どこかかわいげのある鬼たち、気さくな閻魔大王……。個性派揃いのキャラクターたちが、平安京で暴れ回ります。
安倍晴明ほど伝説に走りすぎず、かといって大河ドラマほど史実チックにもなりすぎない。本当に良い塩梅で、読んでいて胸が躍ります。
落ち着き払った沈着な文章は、しかし重くなりすぎず、読みごたえもアリ!何度読み返しても飽きない作品です。
ぜひ、ご一読くださいませ!
惚れ惚れする。
男性は闘う場面をどのように書いているのだろう。確かそんな動機で、男性の書く武闘ものをカクヨムであさっている時に大隅さんに行き着いた。
一読してその文体と漢の世界に惚れ込んでしまい、前のめりになって読み耽った。
読み耽るついでに、途中でうっかり、応援ハートを押してしまった。
その時は二度押しで取り消せるということを知らなかった。とにかく押してしまったのには違いない。
わたしは大慌てになり、読んでても読んでないことにして! そんな、無茶なことを大隅さんに頼んだことを憶えている。
女が読んでいることを作者が知ったなら、陰惨無惨な暴力シーンや、その先の展開であるかもしれない艶場面で、躊躇されるのではないか。
遠慮して、想うように書けないのではないか。
そう想ったからだ。
投稿サイトは作者と読者が近い。
読んでても読んでないことにして!
そんな願いを、大隅さんは多分苦笑しながら流してくれたのだろう、その後も暴力や殺人のある小説は遠慮なく次々と書きおろされ、そのうちに女性の読者も増えてきた。
何の心配もいらなかった。
大隅さんの作品の漢には色気はないのだが、一本の美学が通っており、誰もが謎を隠し、侵し難い硬質の気品がある。
これといって登場人物が男の美学をご披露するわけではないのだが、浮ついておらず、沈思黙考型で、実行力に長けているのだ。
そしてそこにほんの僅かの、ハードボイルド界からも駆逐されつつある煙草のけむりの尾のような、可愛げがのぞく。
特筆すべきは、文章の巧さだ。
ほとんど描写らしい描写がなくとも、平安京の天海に蒼褪めた月が過ぎ、妖しい女の顔が蛾をとめた燈明に浮かび、内裏に鬼火が吸い込まれていく様子が眼に浮かぶ。
かぎられた一文で黴くさい風や闇の濃さを想像させている。
端的にまとめ上げており無駄なものがない。惚れ惚れするほど巧い。
ほぼ毎日更新されているが、毎回きちんと安打を積み上げていく職人技の打者という感じだ。
本編は、マニアにはおなじみの小野篁を主人公にして、オムニバス形式で伝説の巨漢の若き日々を描く。
小野篁についての予備知識がなくとも、なにも困らない。すばらしい文章で平安の怪異を楽しめる。
読者は冥府ならぬ、大隅ワールドの井戸に入るだけでいい。
小野篁は小野小町の祖父だそうだが、父親という説もある。小野小町がもともと不明の多い女人なのだ。
ならば祖父の篁も好きに書いてもよいだろう。