現実逃避
梅田 乙矢
ストレス
みんなはストレスが溜まったときはどうやって発散しているのだろう…
私はストレスの発散方法が分からない。
職場で嫌味を言う上司や同僚の前でこれ見よがしに怒鳴る先輩。
家に帰れば毎日母の愚痴を聞き、部屋で
ゆっくりしようとしても何かにつけ母は
部屋を尋ねてきて干渉してくる。
自分の時間がない。
居場所がない。
一人暮らしをしようにもそれだけの稼ぎもない。
そんな暮らしを続けていたらある日、
自分の体に異変が起こり始めた。
お腹が膨らみはじめたのだ。
その膨らみはストレスが溜まるたびに
大きくなっていく気がする。
会社に行っても変な目で見られるように
なった。
噂は一人歩きをし、不倫相手の子だの
誰々の子だのと勝手なことを言っている。
そのうち会社へ行けなくなった。
噂のこともあったが、このお腹じゃとても
働けない。
ストレスは溜まる一方でお腹の膨れも止まらない。
今度は、母が部屋に居座るようになった。
次々に増えていき、先輩、上司あとは知らない女、全員が部屋の
出て行けと追い出そうとしたが、
手は
その中でも知らない女だけには触れることができた。
肩を掴み出て行けと体を揺らすがなんの反応もなかった。
ぼんやりした頭で思った。
この女は私に似ている気がする。
姉か妹か。
母が妊娠中は双子だった私達。
一人はお腹の中で亡くなってしまった。
そのうち私は諦めた。
どうでもいい。
もうどうでもいい。
ただそこにいる女だ。
ある時、私はストレスの限界に達した。
よく
自分の腹を縦に切り始めた。
痛みなど感じなかった気がする。
このストレスから解放されたい。
それしか思っていなかった。
溢れ出てきたのは赤い血とそれと…
溢れ出てきたのは…溢れてきたのは…
溢れてくる溢れてくる
どんどんどんどん溢れてくる
お腹の中から中から中から
髪の毛、目玉、脂肪、爪、歯、骨
とめどなくとめどなく
どんどんどんどん
どんどんどんどん
とどまることなくとどまることなく
溢れて溢れて溢れてくる
腹の中から出てきたのはもう一人の私。
こんなところにいたのね。
次の日、腹を
見つかった。
女はなぜか自分の髪の毛を引きちぎり、
内臓を部屋でぶち
そうだ。
母親の話では、娘はある日を境におかしくなったそうで“お腹が膨らんでいく”など
意味不明なことを言いはじめたらしい。
部屋にこもり一人で怒鳴ったり、話しかけたりしていたので様子を見に行くと鏡に向かって話していた。
声をかけると母にも怒鳴り散らし
“出て行け!”と言っていたそうである。
現実逃避 梅田 乙矢 @otoya_umeda
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