ダンス・リベリオン・ダンス

御子柴 流歌

腿で拍子を取りながら四六時中死神が奏でるは舞踏の調べ

 20XX年、春。

 突如として空を埋め尽くすが如く飛来した飛行物体から照射された謎の光によって、全地球人は恐怖と体力のどん底に突き落とされていた――。


       〇


 アパートの各部屋、両隣や上下すべてから、ひっきりなしにドンドンと床を蹴りつける音が響き渡り続ける。情けも容赦も全くない床ドンだ。それが昼夜を問わず聞こえてくるのだから、まともな睡眠なんてとれやしない。

 しかしそれを誰も咎めることはしない。正しくは、誰もそれを咎める余裕が無い――と言うべきなのかもしれない。

「はぁ……、はぁ……! ああっ!」

 ドンドンという音に混ざって時折聞こえてくる呻き声。長距離走を走りきった直後のような呼吸になっているが残念ながらは終わらない。

 終わるときは即ちなのだ。

「それ、ではっ、最初のっ、ニュースっ、ですっ……!」

 息も絶え絶えに高々と腿上げをしながら、テレビモニター越しのアナウンサーが原稿を読み上げる。

 その傍らにいるサブMC、コメンテータやスタッフに至るまで、全員が息も絶え絶えに高々と腿上げを繰り返している。

 当然その視聴者も同じだ。テレビ画面を前にして息も絶え絶えに高々と腿上げを繰り返している。街頭のモニターへ流されている映像を前にしている通行人も目的地への移動は腿を天に突き刺さん勢いで上げ続けている。

「謎の、飛行物体、がっ! ああっ! 姿をけ、消してから、1週間が経、と、うとして、いますがっ! 全地球人の、筋肉の叛乱は、治、まる、気配、が、ありませんっ!」

 テレビスタジオに響き渡る高らかな足踏みの音。そして重なる荒い呼吸の音。

「大腿四頭筋っ! ハムストリング! そして、内転筋が、制御不能となり! 今、全人類は、このような事態に、陥っていますが――――――」

 とある部屋からは、一切の音が聞こえなくなった。

 騒音の発生が止まるとき、それはすなわち生命の営みが止まるときである。

 


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダンス・リベリオン・ダンス 御子柴 流歌 @ruka_mikoshiba

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ