最初のラブレター

にわ冬莉

第1話

「だって好きなんだもん」

 友達の質問に、私は駄々っ子のような返事をする。

「なんでアレがいいの? 背も高くない、成績イマイチ、スポーツマンでもない。顔もよくないし、ついでに音痴だよ?」


 ひどい言われようだ。

 中学校男子のモテ要素は、顔、運動神経、頭脳、優しさ、の順かもしれないけどさぁっ。


 でも私は知ってる。

 彼はとても頑張り屋さんなのだ。

 お昼休みのサッカー。全然ボールに触れないのに、いつも一生懸命走ってる。そういうところが好きなんだよね。


「じゃあさ、告白するの?」

「ええっ?」

 考えてもいなかった。

 でも、うん、好きって伝えたいかも…、




 私は彼の誕生日にプレゼントを渡す計画を立てた。

 そのプレゼントと一緒に、手紙も渡す! 人生初のラブレターを書く!



『サッカーは上手くないけど、一生懸命で、』

「……違う」

 丸めて、捨てる。



『あなたの笑った顔が、』

「違う」

丸めて、捨てる。



『よくわかんないけど好きになりました』

「正直すぎる」

 丸めて、捨てる。



『いつの間にか目で追っている私がいて、』

「うーん」

 丸めて、捨てる。



『言葉はいつだって何かが足らないから』

「…え~?」

 丸めて、捨てる。



『この想いに名前なんてなくて、ただ、あなたのことが』

「……」

 丸めて、捨てる。



『私の心に生まれた淡い恋心は、いつしか海より深く』

 丸めて、捨てる。



『遠くで鐘の音が鳴るのは、あなたを思う私の気持ちが揺れるから』

 丸めて、捨てる。



『モノクロの世界に虹色の光が差したのは、あなたが絵具で描いた証拠』

 丸めて、捨てる。



『月の光が照らし出すこの美しい世界の真ん中で』

 丸めて、捨てる。



 振り返ると、ごみ箱に入りきらないほどの紙屑が転がっている。

 一枚ずつ広げて、読む。



*****



「馬鹿なんじゃないっ、私?!」

 あまりの恥ずかしさに、震える。


 全部破り捨てた。

 散らばる、花吹雪。




 机に向かい、カードに『好きです』とだけ書いて、鞄に入れた。

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最初のラブレター にわ冬莉 @niwa-touri

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