第二次大戦中、従軍看護婦として戦地に赴いた女性の記録。
あえて看護「婦」という呼び方をするのは、それが女性であることが物語の中で非常に大きい意味を持つからです。
淡々とした描写がかえって戦地のむごさを生々しく伝え、極限の状態におかれた人間の姿を浮かび上がらせています。その中で赤十字のバッジだけを心の支えに従事した看護婦たちの強さとたくましさ。狂気の戦争へ駆り出された男たちが死に際にすがりたくなるのは、やはり女性という安心できる存在だったのでしょう。その心情は主人公のはかない初恋の相手にも重なります。
戦場の現実を看護婦としてつぶさに見てきた者の言葉の重さ。その人生を読者に追体験させるような克明できめ細やかな筆致。すべてにおいて圧倒される作品です。
卓越した文章力で描写された戦争は、
戦争なんてしたくないと、人々に強く思わせる。
凄惨で無意味な戦争が、数年単位で続いている今だからこそ、読んで欲しい。
看護婦として戦禍に飛び込んでいった少女の胸のブローチは、彼女たちを闇へ闇へと追い込んだ。
そんな勇ましい少女のつましい初恋の瑞々しさ。
重症を負った兵士の手足などを切断するため、
負傷兵を押さえつけたのも看護婦です。
切り落とされた後の、筋肉や血管の断面図。
失血症にならないために、懸命に包帯を巻いた彼女たちの胸にあるのは、
ただ、目の前の人を助けるという信念だけ。
光を描くには、影を濃く、より一層深く描かなければなりません。
光という色はないからです。
そんな光を見るような、崇高な小説でした。