戦場の看護婦ならではの視点で語る、生身の人間の姿

第二次大戦中、従軍看護婦として戦地に赴いた女性の記録。
あえて看護「婦」という呼び方をするのは、それが女性であることが物語の中で非常に大きい意味を持つからです。
淡々とした描写がかえって戦地のむごさを生々しく伝え、極限の状態におかれた人間の姿を浮かび上がらせています。その中で赤十字のバッジだけを心の支えに従事した看護婦たちの強さとたくましさ。狂気の戦争へ駆り出された男たちが死に際にすがりたくなるのは、やはり女性という安心できる存在だったのでしょう。その心情は主人公のはかない初恋の相手にも重なります。
戦場の現実を看護婦としてつぶさに見てきた者の言葉の重さ。その人生を読者に追体験させるような克明できめ細やかな筆致。すべてにおいて圧倒される作品です。

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