第2話 怠惰卿、放逐さるる。
大理石の柱が並ぶ、玉座の間。
騎士、大臣、宮廷魔導士。やんごとなき国のトップが控える廊下を、歩く青年。
陽光なくとも輝くような金の長髪。
切れ長の、高貴さを感じさせる青い瞳。
白い肌と華奢な体躯は弱弱しさより華麗さを感じさせ、男でも見惚れるような、中世的な美貌の青年だった。
王位継承権所持者、上級貴族を示す蒼のマントに包まれた彼は、カーペットの上を悠々と歩き、玉座の最奥、王の前でひざまずき、述べる。
「働いたら負けだと思ってる」
イケメンだと思った?
残念! 俺でした!!!
ニュート・ホルン・マクスウェルです。
15歳です。
青年って呼び方違和感あるよね。少年で良いんじゃないかな。
この見た目なら女装ショタも行けると思って髪とか伸ばしてたんすけど、いやー。声変わりはきついっす。
美容師呼ぶのめんどいから最近切ってません。
王族ヘアーってすごいね。手入れしなくてもつやっつや。
やっぱ世界は生まれが七割だわ。
「……ニュートよ」
あっやべ、親父喋る。
しかしなぁ、この親父も中々イケオジなんだよ。
ただ、筋骨隆々マッスルマンな感じのゴールデンイケオジだからさ、俺じゃ無理な訳。いや、血は繋がってるからやれはするんだろうけど。
筋トレ……きつくね?
「剣の鍛練をしない事も、家庭教師に従わんのも、余は許した」
「まじ!? やったぁ!」
「……馬の鍛練もだ」
「お馬さんって可愛いけど怖いじゃん。生き物だから丁重に扱わないといけないし」
「お主は身体が弱いからな、ニュート」
「うん!!」
パッパ、めっちゃ溜息吐くじゃん。
「じゃが……」
ジャガイモ食いてぇな。この世界ってジャガイモあるタイプの異世界なのかな?
飯で出た事ないんだよなぁ。
「じゃが、魔法学園への入学を拒否するとは何事じゃ!」
よそ見してたらパッパが切れたんだけどどうしよう。
いや……仕方ない事ではある。
魔法学園。くっそ陳腐な名前だけど、すげーでっけぇ話なんだ。
貴族のコミュニティ形成とか。
貴族の役割として魔法勉強するとか。
乙女ゲーの攻略キャラの王族枠するとか。
色々、王位継承なんたらの仕事がその学園生活には含まれる。
そう、仕事が含まれるのだ。
「働いたら負けだと思ってるからです。父上」
「ぬぐぁああああ!!」
「国王陛下がご乱心だ!!」
騎士に取り押さえられるパッパ。やめてよその剣痛そう。3メートルくらい無い?
「ふーっ……ふーっ……」
「父上~? ただでさえ働きすぎなんだからさ、下手に興奮すると血管に悪いよ血管に。プッツンってマンガ表現だけどリアルでもあるらしいからね」
「まった珍妙な言語を使いおって……全く!」
振り払われて20メートルくらい吹っ飛ぶ騎士たち。
ね? 筋トレもいやな俺がここまでやれる訳ないじゃん。
騎士たち皆全身鎧だよ? ムキムキだよ? 吹き飛ばすパパisモンスター。
「働きたくないなどと、世迷言を!
民は今この時も飢えておる!
先の戦乱で……」
話長いんで無視します。
「聞け!」
「……父上ぇ、そこまで民がんにゃぬにゃ~っつーならさぁ、なおさら学園行ってる暇ねぇだろ。良い感じにしろよ王様だろぉ~?」
「減らず口を……っ!」
減らず口って言葉、どっから出てきたんだろうね?
口って減るもんじゃないしな。でも口数は減るとか増えるとか言うか。
「良い感じ良い感じと申すが! お主には何か考えがあるのか!?」
父上……うーん。
思いついてはいるけど、俺、別に政治とか勉強してないからなぁ。
教えてくれる家庭教師は居たけどさ、難しくて難しくて。
勉強しまくっても地方の大学落ちた俺に理解できる訳ないじゃん。彼女にフラれて部活やめてバイトやめて頑張ったのに無理だったんだから。
ま、適当に言っておこう。
父上は対案示さない奴は殺して良いって思ってるタイプの人だ。
「金をこう、ぽーいっと」
「ぽい?」
「王様なんだし、お金あるでしょう? その辺を民間のさ、頭よさそうな奴とか、困ってる奴にぽいってしてさ、上手い事してもらおうぜ」
「……ふざけた事を!」
ふざけてるのを否定できないのが15年間の俺の人生。
「一考の価値があるとは認めよう」
あれ、パパの頭思ったより柔らかい。
「じゃが、その頭のよさそうな民とは誰じゃ? 困っている人間とは?」
「えー……」
「貴族は学園で勉強しておるから、普通の民よりは知恵がある。貴族の中にも、戦争で困窮し困っている者もおる。故に儂は貴族を優先して、その金を与えているのだ」
「言われてみれば」
「じゃのに、民は未だ苦しんでおる。終戦より15年が経っているというのに……」
パッパ落ち込んじゃった。ちょっとかわいい。
なんでムキムキはムキムキなだけでかっこよく見えたり可愛く見えたりするんだろうね? 努力の成果?
それなら俺はムキムキにならなくて良いかな……。
「……直接民の声聞くとかぁ?」
あんまり見るに堪えないので、怒らせるような口調で言ってみる。
パッパは落ち込んでるより怒ってる方が元気そうだからだ。
テキトーな案なので、多分無視されて終わりかもだけど。
「ほう」
おや、反応が。
「……なるほど」
今の間はなんだい。
あごひげを撫でるなパッパ。怖いだろう。
何を考えたんだい? 子息の俺に包み隠さず言ってみな?
「ニュートよ。魔法学園にはいかなくても良い」
「やったぜ!」
「その代わり」
「そのかわり」
「…………王都より遥か北方、ヴェルヴェルク領を知っておるな?」
知ってる。
いや、勉強は嫌いだけどさ、あそこよく劇とかで出るんだよね。
俺働くのは嫌いだけど演劇とか好きでさ。
この世界にようつべとかが無いからって暇つぶしに覗いたら結構面白くて。
「……前の戦争でめっちゃひどくやられた所でしたっけ。領主も不在っていう」
「そうじゃ」
いやぁな予感すんだよな。
なんでそんな場所の事言うんだろ。
「ニュート・ホルン・マクスウェルよ。王命を下す」
「えっちょ」
「ヴェルヴェルク領に赴き、これを統治せよ!!」
「……へぁ?」
何言ってるかわかんねぇ。
とうち、倒置法。あれやるとかっこいいけど難しいよね。
面倒だから俺の脳内メモ帳では使わないようにしよう。使うかな? どうだろ。
いや違う。パパは文学とかより剣が大大大好きな王侯貴族だ。
とうち。
統治?
「そこで直接民の苦しみに触れ、かの地を復興してみせるがよい!」
______という事で。
そういう事に、なった。
なんでぇ?
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