第10話 怠惰卿、騎士団を結成なさる。
獣人を徴用したニュート氏の判断は正しかった。
彼らは、いわば兵士だったのである。
十五年前の終戦によって北との国境警備が厳しくなった結果、ヴェルヴェルク領に取り残された獣人の一族。
戦後に生まれた世代は領内の仕組みに詳しく、廃墟となった都の構造をよく理解しており。
戦前から生きている世代は、兵士として訓練された過去から規律正しい行動を身に着けている。彼らに適切な賃金と食事を与え、ヴェルヴェルク領再建に役立てたのはほかならぬ美少年。
獣人によって修理された、黒レンガ積の館の二階。
そのバルコニーから見下ろすは、長い金の髪の美少年。
俺です。
ニュート氏こと、ニュート・ホルン・マクスウェルです。
ここまでは完全に俺に独白だよ。後世の歴史家はなんて言うかな。バケツ頭ちゃんほど俺に殺意を向けないといいけど。
「しかし……やっと休めるなぁ」
久しぶりに出しちゃった白パジャマで背伸びしちゃったりするぞ。
獣人職人のおかげで良いベッドも見つかったし。
あいつら良い奴だよ。もふもふにして良い奴。壊れキャラ。
獣人たちと宴をしてから一週間が過ぎた。
あいつらすごいんだ。
数が多いし、金と飯出せば働いてくれる。最高。この館も修理してくれた。
今はあれだな、この廃墟の都に散らばってる盗賊とか獣人のコミュニティと連絡を取ってもらおうとしてる所だぜ。
その間。
俺は、一歩も外に出ていない!!!!!!
「働かなくて良いって最高だよな」
やっとどころか、昨日一昨日その前も言えから出てない。エブリデイホリデイ。
「「「貴族さま!」」」
「おや」
世界の美しさに目覚めていると、ケモミミメイドズが窓からひょっこり出てくる。
運動能力高い。かわいい。最強。
出てきたのが盗賊みたいな髭面だったら殴ってたかもしれない。
今世は鍛えてないからへなちょこパンチだけど。
「なんだいケモミミメイドズ」
「けも……?」「貴族さま!」「大変な事がっがっが」
「大変なこと」
ふむ。
「おやすみ」
「「「貴族さまぁ!?」」」
いや、だってさ。俺は悪くない。
俺は悪くないんだ。
「イベントじゃん!! やだよ!? 生活が安定した瞬間! ベッドでだらだらし始めた瞬間!! かかってくる電話に組織からの依頼に襲撃者にぁあああぁぁぁ!!」
「「「こいつやべぇ」」」
赤ちゃんになっちゃいました。
「殿下」
全身鎧が来て剣を振りかぶったので起きます。
「……バケツ頭まで一緒に、なんだよ大変な事って?」
「「「吹雪がきます!」」」
「ふぶき」
ふぶき。ブリザード。
ここはホルン王国北方ガチ雪やべー領域・ヴェルヴェルク領。
「死?」
「……ぬかもしれんと、穢れた血らは言っているのです。殿下」
「うーん。て、穢れた血言うなバケツ頭」
「むぐぅ」
鎧のまま呻くバケツ頭可愛い。
凍死するのは別に、俺的には構わないんだが……。
「殿下、ご存知ですか?」
「知らん。俺は勉強が嫌いだ」
「では私の方から……この地が十五年前、終戦からも領主が決まらない理由が吹雪にあるのです」
「はぁ?」
たかが自然現象なら問題ない気もするけどな。
北海道のおっさんなんか、俺を南極に半年間放置して謝る言葉が『悪かった』だけだったからな。人間は何事にも慣れてしまうのだ。
慣れる努力とかしたくないです。
そもそも、この地域は昔から雪の精霊とかの劇で有名だ。戦争になっただけで人が居なくなるとはとても思えない。
「吹雪と共に湧き上がってくるのですよ。先の戦争で死んだ、アンデッドが」
「わぉ」
なるほど。
……この世界、魔物居る系異世界だったか……。
どうしよっかなこれ、領主でスローライフってタイトルで急にドラゴン狩りする話になったりしねぇかな。やだなぁ。
「……んー」
「殿下。本国に騎士団の派遣を要せ」
「獣人全員に館に来るよう伝えてくれ。一緒に冬ごもりだ」
「……い、を?」
「「「わぁ」」」
「伝令ごー! ケモミミメイドズ!」
「「「はーい!!!」」」
しゅばばばっと飛び去るメイドズ。
うむ。ノリで言ったが流石ケモミミ、すげぇ身体能力。
こいつは心強い。
「……」
「どうしたバケツ頭。お前も……」
「我慢の限界です。殿下」
兜を脱ぐ、バケツ頭。
いや、バケツ頭を取ったからバケツ頭なしバケツ頭だ。
下から出てくるのは、育ちの良さそうなカールした茶髪。凛とした目つき。努力の結晶みてぇな顔立ちの良い女。
こわいです。
「なぜ穢れた血を迎え入れるのですか!」
「なぜってそりゃ、館広くて部屋余ってるし、強そうだし……」
「先の戦乱で、我が父ギュスターブ・バケルトは獣人に殺されました」
急にヘヴィな話するじゃん。
どう反応しろってんだよ。こっちパジャマだぞ?
吐きそう。
「……十五年経っても、奴等は敵です。取り残されたという歴史があっても、間者が居る可能性は否定できません」
「間者ぁ? こんな田舎にスパイなんて送ったって」
「あなたが居ます。王位継承権第十五位、ニュート・ホルン・マクスウェル殿下が」
……俺ってすごい奴だったのか?
せやったな。
俺えらい貴族じゃん!!!
「私のような未熟な者が派遣されたのも、恐らくはあなたの死の一助となるためです。国境沿いヴェルヴェルク領にて王位継承者が暗殺、口実に再侵攻……ありえ」
「ないです」
「へ?」
多分、ありえない話ではないとか言おうとしたんだろう。
先取だけしておく。
が、何を言うか実は決まってない。
とりあえずそれっぽい事を並べていく。
「獣人の動きは多少ご都合主義な展開だし、俺も信じてないよ。よくわからんし」
「で、では!」
「盗賊、七人居たけど強かったろ。ありゃ見事な斧裁きだった。正式に騎士団かなんか結成したいな」
「……? あの、その、話が」
「どっちも、俺を殺そうと思ったら殺せてた」
そうだな。それっぽい。
「これからが本番って可能性も無いわけじゃあないけどな」
「っ……! 判明してからでは遅いのです、殿下! 我が家の汚名返上のために、私は死地に赴くあなたにお仕えを……」
「だから頼む」
「……何を、ですか?」
よし。
「騎士団を結成する。ヴェルヴェルク領の騎士団だ」
よぉし。
「初代騎士団長を任せたい。バケツ頭、お前にな」
「なっ……!」
バケツ頭は魔法が使える。貴族として勉強した証だ。
盗賊に貴族万歳論を語ってたし、汚名返上のためとかも今言った。
つまりこいつは、義務感が強くて、そして名誉に飢えてる……うーむ、可愛い。
「お前が守れば、俺は死なない」
「わ、私はまだ未熟で」
「直接やり合う以外にも戦い方はある。お前は寝てたから知らんだろうが、盗賊団もそうやって諫めた」
嘘を言いながら、硬直するバケツ頭の肩を叩く。全身鎧かてぇ。
「……信頼しているぞ?」
俺は部屋から立ち去る。修理された廊下もまぁ綺麗なこと。
後ろで泣きくずれる音がしなけりゃ、観光地みたいだ。
んふ。
いや待て。まだ笑うな。
美少年スマイルをこぼすな。
____魔物と戦うスローライフ、完全回避のために。
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