第9話 怠惰卿、奉じられる。

 穢れた血の群衆は、館の前から一歩も動かずに居た。

 獲物を待ち構える狼の群れが如く、殺気を滾らせ。

 今か今かと、館の正面から出てくる筈の人間の貴族を待っていた。

 爪で裂こうか。

 牙で抉ろうか。

 顎で砕こうか。

 蹴って地獄へ堕とそうか。

 人間の騎士と七人の盗賊が見守る中、それは、姿を現した。


 金髪碧眼長髪超絶美少年の俺の事はどうでも良いんだよ。

 ニュート・ホルン・マクスウェルです。

 一先ず、このケモミミメイドズを見てくれ。


「はぁああ!?!?」


 バケツ頭。良い反応だ。それでは本日の献立を発表いたします(?)。


 エントリーナンバー1・うさ耳幼女 ミラ。

 ちょっとだけ利発そうな前歯が可愛い兎獣人さ。

 それに合わせ、ウルマースから貰ったメイド服をだね。

 ミニスカにした。

 健康的でこれから強く育ちそうな脚と、尻尾のキューティさを押し出す。

 白い毛並みでの儚さと、露出多めでの活発さ。

 こいつは良いメスガキになるぜ。


 エントリーナンバー2・イヌ耳少女 フ―ティ。

 真面目そうな黒髪わんちゃんさ。

 折角なので前髪をぱっつんにした。わんわん。委員長デザイン。

 眼鏡は流石に手に入らなかったので、メイド服の裾を長くする感じで対応したぞ。

 あ? 露出減らしはクソ?

 ガキが。

 いいか、隠れてる物が良いんだ。

 清楚で実はエッチなお姉さんもな、清楚パートが無いと無意味なんだぜ。

 いやぁ。しゅき。


 エントリーナンバー3・ネコミミ少女 マオ。

 赤毛のネコちゃん。猫獣人。可愛いに決まってるじゃんね。

 だが問題が発生した。

 前二人を仕上げた時……既に、メイド服の在庫が切れていたんだ。

 どうしようか迷った結果、俺は俺が持って来た服を使った。

 かつて、俺が女装ショタになろうとしていた時代の遺物。

 ……チャイナ。

 これにミラちゃんのミニスカ制作時に出た端材をちょちょいっとしてね、うん。中華メイド。嫌いな人間いる? そいつは人間じゃない。

 八重歯がキュートだけど一番引っ込み思案な子だ。

 借りてきた猫。八重歯、チャイナメイド。

 勝ったな。


「さて」


 沈黙が、世界を支配する。

 日は既に傾き始め、獣人たちの眼光がぎらぎらと黒レンガの町並みに輝き始める。

 うん。


「……なんでめっちゃ警戒されてんの?」

「殿下が娘三人をさらったからでは……??」


 あれ、なんで身に覚えがあるんだろう。そんな事してないのに。


「あなたという方は……」

「あっしは信じてましたぜ。美少年淫乱をやるにゃ、あんたは普段の頭が悪すぎる」

「盗賊よ。それは擁護なのかい」

「賞賛です。ニュート様」


 ふっふー。人間からの反応は良好なようだ。

 バケツ頭の睨む感じが兜越しでもマジでやばいけどまぁOK。

 OKじゃないのはあと獣人軍団だけ。

 さぁて、土下座する準備でもしておくか。ちょっと棘とか鉄板探さな……


「「「き、貴族さまはいいひとでしゅ!」」」

「わっ」


 びっくりした。

 さっきめちゃくちゃ全身触って服速攻で仕上げたケモミミメイドズが急に叫んだ。

 なんだろう、告発かな?

 保釈金いくらくらい?


「お、おんめ達、本当か? 魔法で洗脳されたり、酷い事……」

「さ、されてないぴょん!」

「にゃん」

「ばうわふ」

「キミこっちの言葉喋れたんだね」


 俺の事は無視してネコミミメイドズに向かう獣人の群れ。

 ケモともふもふが集まっておる。

 素晴らしい光景。

 ちょっと臭いが、ケモミミメイドズは可能な限り井戸水で洗って乾かしたので大丈夫な筈。大丈夫じゃないかも。


「じょ、上等な生地だぁ……」

「ん、さらさら、好き」

「おんめよがったなぁ! こげに動きやすか服もろて……」

「しっぽがきつくないかって! きいてくれたの!」

「おねえちゃんかわいい!」

「んふ……きずあと見られたくないっていったらね、貴族さまね」

「も、もう! あんまほめないで! ほら、ごはんあるから……」


 自作の服を評価されるって怖いよね。

 五徹したレポートを中身も見ないで棄てられた時を思い出した。

 赤ちゃんなろうかな。


「……すいやせん。貴族様」


 その辺の冷たい石畳に転がってばぶばぶしていると、強そうなケモが来た。

 ネズミっぽい。

 ネズミで灰色ローブでもう長老。

 ネズミの平均寿命っていくらだっけ、まぁいいや。


「謝られるような事したか俺……怒られるような事はしたんだが……」

「いえ、いえ! 今回はわたくしどもが悪かですたい。奴隷さ買うもんは全部碌でもなかって、おもいこんでまして……」

「殿下はろくでもない人間だと思うぞ」

「バケツ頭シャラップ」


 いやしかし、なんだこの反応。

 わからん。

 俺遊んだだけなんだが。

 というか女児誘拐と身体べたべた罪で怒られないかな。

 怒られるどころか死刑ありそう。


「貴族さま」


 恐怖で震えていると、ネズミ長老が何か言おうとして。


「お、なんだい。なんでしょう。無期懲役はやめてください死刑がい……」


 獣人一同が、ひざまずいた。

 ひざまずくでいいのかな。

 こう、神様に祈るみたいに座って、祈るみたいに手を合わせて。

 時間にあわせた儀式かと思ったが、それらは全部俺に向いている。


「私共を人間扱いしてくださるホルン王国の統治者は、あなたがはじめてです」

「へー」

「どうか、どうかおひざ元においてください。貴族さま……ニュート・ホルン・マクスウェル様!」

「ニュート様!」「ニュート様!」「ニート様!」「ニュート様!」

「誰だ今ニートっつった奴……ってえぇ……?」


 ニュートコールが始まった。

 なんで?

 知らん。

 助けてバケツ頭。


「まさか、これを見越して……」


 知らん。へい盗賊。


「こいつぁワルだぜ。弱ってる人間に漬け込むたぁ……」


 へい。

 俺知らん。

 何事。

 ねぇ。へーい。どなたかー???



 夜は宴になりました。

 ケモミミメイドズが給仕をしてくれたので、もう良いと思います。

 考えんのめんどくさい。

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