エピローグ

エピローグ

 氷河はサードのパンツをハサミで破き、帝王切開をすることになった。片腕だけで何とか無事に赤ちゃんをサードの腹から取り出した。時間は無制限にあったので、一時間以上かかったかもしれない。サードは最初こそ泣き叫んで抵抗していたものの、出血が酷く腹をかき回しても次第に暴れなくなった。


 ミミズみたいなへその緒とレバーみたいな胎盤が美しかった。この中で救いが与えられるのは、ゲームと無関係な人間だけだ。


 サードが目の光を失うまさにそのとき、一瞬だけ赤ちゃんに向かって指を伸ばしてきた。氷河は赤ちゃんの手をサードに握らせてあげようとしたものの、サードは目に涙を浮かべてこと切れた。


 パソコン室の動画が一つ増える。


 第三の動画。『トイレに行きたい人の個人情報特定動画』一分二十二秒。再生回数、三万回再生。


 氷河は見なくても内容を覚えている。氷河が通報して削除させた動画だ。


 サードは道端で蹲る氷河の弟、大河の住所氏名だけでなく、学校や両親のことも紹介動画としてアップしていた。それが、面白おかしく拡散されていたことを氷河は知った。あのとき、氷河の鳥肌も産毛も逆立ち、言い表せない怒りに震えた。


 病気を悪く言われるのなら、まだ理解できた。いや、動画の撮影者らは病気だとも気づいていなかった。動画は腹痛に苦しむ人そのものを面白おかしく取り上げていた。


 人の不幸を楽しんでいる連中が憎かった――。


 氷河は赤ちゃんを抱えて四階を目指す。まだゲーム終了にはならない。氷河が生きている限り。


 四階の一年四組。教室の一番後ろの席に氷河は赤ちゃんを抱いて着席する。


 一つ誤算だった。本当は誰も生き残らせるつもりはなかった。復讐対象者のサードがまさか妊娠していて、政府の奴らがそのままデスゲームに放り込むなんて思わなかった。


 赤ちゃんを救うしかないではないか。氷河はスマートウォッチをつけた腕を赤ちゃんの手の上に乗せ、自身を撮影する。十分待つ間にハサミで自分の右手首を切る。


 十分が過ぎ、スマートウォッチからヘリがやってくるような効果音が鳴る。


 見れば『Congratulation』の文字。氷河は白けた。すべて自分が収録した演出だからだ。


 意識が遠のく。教室にスーツの政府の連中が入ってくる。赤ちゃんを勝者として連れて行く。それでいい。全部終わった。


 政府の復讐給付金に手をつけてはじめたこのデスゲームも、これで終わりだ。いじめの加害者を法的に捌く新しい制度、『デスゲーム支援制度』の最初の被験者になれて良かった。


 自分が死んでもデスゲーム支援制度は残るはずだ。今後、ゲームの有用性が認められれば、このゲームは法律で正式に制定される。


 人の不幸に寄ってたかる連中はみんな、殺される。氷河は永遠にゲームマスターとして名を遺す。ハチミツ男のキラー・ハニーとして……。


 教室でプロジェクターが勝手に作動する。


『みなさんお疲れ様でしたー。生き残ったハニー・プレイヤーはおめでとう! 死んじゃったみんなはあの世でも楽しくぅー、たにんの不幸をあじわっちゃおう!』

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ハニー・ゲーム 至極の脱出ゲームは蜜の味 影津 @getawake

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