第I話 お坊ちゃまのお喋り講座

 前回の今回というわけで、今日は12人のロボメイド達と一緒にワイル・ミグウィットのおトイレにお邪魔していまーす。ワイル・ミグウィット技術顧問、今日はよろしくお願いします。


「はい、どうもね。窓際に置いてる”見るからにヤバそうなマシーン”には触らないでねー」


 見るからにヤバそうじゃないマシーンは触ってもいいんですか?


「見るからにヤバそうじゃないマシーンにも触らないでください」


 ヤバくないなら別にいいじゃない。


「それに関してメイドロボ7番機より説明がありますのでよくお聞きください」


[       ⚠警告⚠

 ”見るからにヤバそうなマシーン”にも

 ”見るからにヤバそうじゃないマシーン”

にも触らないでください    ]


 分かったわ。


「お判りいただけましたか?」


 早速ですが、ボク、オシッコしたいのですけどよろしくって?


「何がよろしいんですか?」


 ボク、オシッコしたいのですけどよろしくって?


「聞こえなかったわけではありませんが」


 でも、表の看板には”Lavatoryトイレ Myguit”って書いてあったけど……。


「……。え、うそ」


 嘘じゃあないわ。確認なさい。


「確認いたしました。正しくはLaboratory研究室 Myguitです」


 そうでしょうよ。ところでミグウィット、オシッコに行きたいのですけどよろしくって?


「それは本当なのね」


 本当よ。ボクがお手洗いに行っている間、ロボメイド達とお喋りしてなさい。



―――――――――――――――――――――――――――――――――


 ただいま。どう?会話は花咲いた?


「……」


 ……なによ、この、コミュ障しかいない飲み会の席、もしくはわりとガチ目な御通夜みたいな気まずさは。


[お坊ちゃま離席の間に行われた会話数:0]


[しかも微動だにせず]


 なんとまあ。


「お坊ちゃま良くお聞きください。緊張して緊張して、声の一粒も出なくなるじゃないですか?例えばこんな風に囲まれちゃったら!」

        ♐    ♑

      ♏        ♒    

     ♎          ♓

          オレ

     ♍          ♈

      ♌        ♉

        ♋    ♊

「これはまるで……そう!尋問!」


[人聞きの悪い……]


「それにお前たちガチで何も言わないし」


[まさかロボットに忖度しろと言うのですか?]


創造主には意外と冷たいのね……


[フィードバックは端末の使命です]


ともかくあなたたち、誰が喋ってるのか紛らわしいから、まず名乗ってから話し始めなさい。


♑[かしこまりました]

♒[かしこまりました]

♓[かしこまりました]

♈[かしこまりました]

♉[かしこまりました]

♊[かしこまりました]

♋[かしこまりました]

♌[かしこまりました]

♍[かしこまりました]

♎[かしこまりました]

♏[かしこまりました]

♐[かしこまりました]


「……尺稼ぎモード?」


♐[一時的なものです]

♓[どうかお気になさいませぬよう]

♍[また, いかんせん人数が多いので, 間を詰めてお話致します]


 めちゃんこに気が利くわね。


「創造主としても鼻が高い」


♐[めちゃんこ恐れ入ります]


 しかしミグウィット、報告によるとあなたは大変優秀な人材である。もっと言えば、大変めちゃめちゃに優秀な人材である。しかし! 問題なのは、素晴らしい仕事の報告”しか”上がってこないこと。


「その、両手両指で””作るやつ、ハマってるんですか?」


 マイブームよ。


「そうですか」


 アニメで見たのよ。ミグウィット、あなたは? まさか、あなたにはプライベートというものが無いのではなくって?


「そんな馬鹿な……私とて休憩時間に……」


♋[こいつ仕事してまっせ旦那]


「ちょ!」


 これで分かったでしょうミグウィット、あなたはコミュ障なのではなく、話題が無いのよ! 仕事しか!


「そんな……ワイ、虚無でっか……?」


 そりゃもう虚無よ。虚無を超えた虚無。虚無ご本人様。もっと見聞を深めるべきよ、さきいかの話題とか、スルメの話題とか、イカのミイラの話とか。


「同じですよね」


なんでもいいのよ、ネジのサイズの話を女の子に振ったりとかしなければ。


「なんですかそれ」


ネジフェチよ! ネ・ジ・フェ・チ。


「聞こえなかったわけじゃありませんが」


♓[しかし私たちにはネジもつなぎ目もありませんが]


「フェチ持ちなわけでもありませんが?」


 フェチはあった方が良いわよ! ちなみに私は脚部ユニットフェチ。接地に適してなさそうな脚を持つ飛行ロボットにロマンと果てしなき良さ味を感じる。


♏[それな?]


「やろうと思えばできますが」


♐[社内給仕に必要な機能とは思えません]

♋[しかもほれ, 飛べない社員しかいないから, 周りから浮くし]


「災害救助用に使えるでしょ」


♋[助けてください会長! このひと, 私たちに溶接用トーチとか付けようとしてくるんす!]


 フェチシズムね。


「災害救助用です!」


 まあいいわ。今度それで炙りイカ作って頂戴。一瞬だけジュッとね。


♊[ナイスフォロー, なびく波浪, Aren't gonna say hello?]


 鶏そぼろ?


♎[だが合理的であろう]


 そうよ! そんなにミゼラぶる必要は無いわ。


「ミゼラブル?」


 まるで疑似ハーレムが如くに、あなたたちメイドロボがかわいこちゃんばっかりなのも不要な機能なのか? 否!


「災害救助用です」


 そこはフェチシズムであれ。仕事人間。

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