最終話 重複人間 -Duplicators-

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GENESIS 

第1章1節

初めにロゴスありき

次にチュロスありき

赤い鉄の使用人が住んでいた世界がそのあまりの愉快さの欠如のために滅んだ後

世界は12人の賢者によって再び作られた。

賢者は2億6000万あまりに及ぶ、運命と言い換え可能な規則を作った後、その体はバラバラの単位となった。


第1章2節

はじめにファトゥム(運命)ありき

その運命の中には重力、知性、光の進む速さなどあらゆる事柄が既に含まれていた。

単位と単位が重力で引かれあい、摩擦を起こし、いずれは星となることすらもファトゥムであった。


第1章3節

知性は他者と衝突することを望んだ。

しかし知性は充満しているので衝突はかなわなかった。

この時自我が作られ、宇宙とその中のあらゆるモノは膜で覆われた。


それと同時に知性は衝突を拒んだ。

引力を信じたと同時に反作用を恐れたからだ。

なので現在の知性は、恣意的に斥力を発生させない限りお互いに磨り減り合うようになった。


第1章4節

12人の賢者の体からは12の世界が生まれた。

そのうちの第4の世界においては……


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 [初めてこの世に知性ある命が生まれた時、天を行く星々の動きを見て何を思ったのだろうか。たとえ本能のみで動いてるとされる生き物でさえ、その星の動きを生活の指針にしたりもするのだ

太陽や月、その他の惑星や星々から大地に降り注ぐ光は明暗の差はあれどその昼夜を問わず、常に大地を照らすものであったが、人々が星を見て、物語を作った時に奇跡が起こった]


 [20万年前、ヒトと呼べるものが生まれ、岩壁に色を刻んだ。物語を作った。

 5000年前、砂漠の民が星々の連なりを物に見立て、記録に残した。

 3000年前、砂漠より東に住む羊飼いたちもまた、星々を繋ぎ、それを家畜に例えた。それは北の占星術師、もしくは神官達に伝わり、星のつながりを66に区別した。特に太陽の通り道にあった星々には特別な物語が紐づけられた]


 [物語とは精神を照らす光である。世の賢者は法を作り規律を作りルールを作った。法がただの法を超越し人々の心を救えるよう、法には物語が付随した。ここに神が生まれた。

 神は教えとして暮らしと人の心とを照らした]


 星々に物語が作られた時、そこに新たな光が宿った。それは命と呼ばれる光であり、あなたも目の内に灯す熱い火だ。


 それはいわゆるラジオウェーヴと呼ばれるものか? それとももっと強大で、いまだ観測されていないエネルギーか。それは定かではないが、『宇宙より降り注ぐエネルギー』と物語の持つ『精神に干渉するエネルギー』が合わさり、二つの姿を持つ人間が生まれた。二つの姿は同じ場所に重複して存在していた。


 その者はその者の精神そのものを象った、無骨で鎧のような姿をしており、その上に人間の皮を被っていた。

 人間に怖がられずに、友達になるためだ。


 その者たちの体は心、もしくは夢と呼ばれているものと同じ成分でできている。彼らは怖がられることを怖がった。


「お坊ちゃまはC&S財団御曹司。ですが先代と血は繋がっておりません」


 彼らは……重複人間は、生殖能力を持たない。自然発生で生まれてくるのだ。


「初代、ノウェアー・レイノルズ、先代、ニコラ・レイノルズ、そして私、ウォルラス・ユニヴェルス」


 全て同一人物でございました。


「いつかはこの日が来ると……そして今日がその日でございます」


 もっと早く聞きたかった。パパが死んだのが嘘だったなんて。


「申し訳ございません」


 さもなくば、もっと早くにこうやってハグする機会もあったでしょうに。


「意外としたたかで安心している……話してよかった。セリーヌ、おまえならきっとこれから話すことも受け入れるだろう」


 全て教えてちょうだい。


[かつて研究されていたシミュレーション仮説について、レイノルズは様々な手掛かりを既につかんでいた。彼はヒトが何のために産まれ、なんのために死ぬのか知りたがっていた。特に……子孫を残せない重複人間のケースは独特だ]


「重複人間は地球上に最大で88人しか存在できない。その絶滅危惧種っぷりのために、重複人間に関する記録はほとんど残っていない。極僅かな書物を残すのみで、その他太古のことはすべて伝聞で伝わっている」


[近代の記録によれば、重複人間の人口が88人になったのは、1922年、国際天文学連合が星座の数を88個に制定したのと同時の事である]


[なぜ星座なのか? 単なる宇宙放射線とかではない。星座に紐づけられた神話とか、その数を人間が定めたこととか、そういう”認識”の類が重要なのだとレイノルズは結論付けた]


 人間の脳が持つ潜在能力に関して一家言のある、Prof. アレクサンドラ・アレクサンダー・サミュエル・プロミネント・エント・ニコラウス・ニコラ・パロンツィ・グラニア・エント・ジョージ・ジョーンズ・バイザウェイ・オブジェクト・トゥ・オール・セックス・オン・ザ・テレヴィジョン夫人曰く。


「アタシは最近ボケてきちゃったから、記憶について考える機会も増えたのだけれども、ほら、アタシの名前ってとにかく長いでしょう? アレクサンドラが私の名前で、アレクサンダーは父の名前、そこから後ろはおばあちゃんの名前とかが入ってるのよ? これ自分でも言えるかどうか怪しいところがあるのだけれども、記憶チェックもかねてちょっと試してみるわね? えーと……アレクサンドラ・アレクサンダー・サミュエル・プロミネント……パロンツィ……えっと母方の……違うわ……エント・ニコラ……ダメね、最初からやり直すわ。アレクサンドラ・アレクサンダー・サミュエル……パロンツィ……じゃなくて、アレクサンドラ・アレクサンダー・サミュエル・プロミネント・エント・ニコラウス・ニコラ・……パロンツィ!! それで、グラニア・エント・ジョージ・ジョーンズ……えーと、バイザウェイ・アイ・ラヴ・ペパロニ? ……絶対違うわね。アレクサンドラ・アレクサンダー・サミュエル・プロミネント・エント・ニコラウス・ニコラ・パロンツィ・グラニア・エント・ジョージ・ジョーンズ・バイザウェイ……」


 それとは関係ないがこう主張する者もいる。


「シャンデリア男爵は、これが苔類や地衣類の集合体であると指摘、同国のフロステン公は水辺に特有の緑藻だと主張している。

フロステン公が編纂した書物パパイラスの第16章33節食べられない野草の項目にはこうある。「しかしこの物体が一般の知るところよりも遙かにインテリアに適さない巨大さを呈しているのは明白である。つまり、これを巨人族サイクロプスがかつて用いた耳かき棒ラカーユの先に備えられたケサランパサランと解釈するよりも、これはかの国民的な菌類と相利共生関係にある英雄的藻類、即ちスーパーマリモであると考えるべきである」


[ここで一句。


枯れ枝の僅かに萌ゆる草色に

冬の悔いなほ露となるらむ]


 それはさておき、それから人間の認識に関する研究は加速した。

 

 無走車 あるいは 夢見る車


 ユメリアル・ビークルを活用した研究により、夢想と現実の境が極めて脆弱であることが判明した。それはなぜか。幾世代をもまたぎ研究を続けた結果、ある一つの結論にたどり着いた……あまりにも希薄な夢想と現実の境、そのさらに外側の実在に]


「手掛かりはあったのです。世界が突然生まれ、歴史が後から追随していることを示唆する諸現象の報告も……どうもこの世界は……創作の世界らしいのです」


 あら、漫画だといいな。可愛く描いてもらえるし


「残念ながら、小説っぽいのです」


[セリーヌお坊ちゃまにはあっさりと受け入れられたが、当時はとても驚いた。驚いたし、困惑したし、なによりも不安になった。すべてを否定された気分になったからだ。

 ようは『作り話』、嘘であり、でっち上げであり、そのような話は。では私はなんだ? この感覚は? この手は? セリーヌを拾ったときのあの感情も全て虚無なのか?]


 それは間違っているぞ、ウォルラス・ウニヴェルス。でっち上げだが嘘ではない。そう設定されているというは歴史であり、過去だ! 虚無ではない。


[少なくともボクたちにとっては真実だと、セリーヌお坊ちゃまは優しく言った]


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第2章1節

物事は回転也。

頭より始まり、尾にて収束するこの円環においてはいかなる事象もこの現象に基づいて発現する。

我々の頭上を日夜回転する夜空もその一部である。ある周期で巡る月の様態は特にそうである。


第2章2節

物事は全く明らかなるかあるいは全く闇の中かというわけではなく、その調和によって形作られている。例えるならば、我々が正常と定義している精神の陰陽の割合は2:8だが、月が定めた正常状態は5:5である。


第2章3節

月に見染められたものがいる。

一人は女神である。女神は人間との間に子を二人授かった。

子は人間だが彼らを象徴するものがある。


第2章4節

子は兄妹であり、兄Sakiwoiは蟷螂である。人々は彼から『刈り取る』ことを学ぶだろう。またSakiwoiはアリである。人々は彼から育むことを学ぶだろう。

 妹Mixagaは獣である。人々は彼女から『狩り取る』方法を学ぶだろう。Mixagaは鳥である。鳥のもたらす草の種から、人々は育むことを覚えるだろう。


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[かつて創造主は貝を創造された後、ジャイアントスイングメソッドによりハチャメチャに貝を遠心なさいました。

これにより外套膜より空気が浸透、内部はそれはそれはポリエチレンはち切れんばかりに膨張し貝殻もそれに耐えきれず粉砕。

殻を失ったこの貝の中身が、今日皆様が知るタコの原型になったのでございます。

なお、創造主はこの手法を応用し、花からサボテンをお作りになられました]


 クオリアの話は知っているでしょう? 真に無意味なら創作など存在しない。とっくに衰退している。たとえ神の実在さえも、たとえ作り話でも虚無ではないとボクは思う。人々がそれに意味があると思う限り、まるで本物の経験のようにそれは振舞い、記憶、そして歴史に残っていくのだ。


「意味に肉付けされているという点においては、その間には何の違いも無いと?」


 かつて人類が……もしくはもっと前か、獣がと認識したとき、そしてそれをその他と違う鳴き声で区別したときから意味が持つ意味はとても重く……

 そして無から経験を生み出せると知った人は大層喜んだでしょうね。


「『GENESIS第12章88節 心だけで空を見よ』か……」



 そんなことよりパパ、この小説に挿絵が付く予定はあるの?


「残念ながら無いようで。セリーヌ、お前のビジュアルは永遠に明かされることは無いでしょう」


 今日一番のショックだわ……


「今のところは、ですけどね」


 希望だと思っていいのね。


「今日もまた夢を見ましょう」


 この愉快な日々が明日も続くことを。


「乳酸菌のおとぎ話を」


 パン酵母の物語を。


~Fin~

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重複人間 -重複人間シリーズ外伝- ドクター・ウーグ @Doctor_Ugene

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