第S話 宇宙戦艦テルラ ~あん肝星団帝国襲来!~

 さて、休憩にしましょうか。


「え、この流れで休憩ですか?」


 心配することは無いわ。休憩が終わったらすぐ元の流れに戻す魔法の言葉を唱えるから。


「魔法の言葉」


 お楽しみに。


「気になりますね」


 そうでしょう。では早速見ましょうか。


「何を見るですって?」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――


ああ 青き空よ 遥かその先の海よ♪

愛のため旅立て 宇宙戦艦テルラ♪


降りかかる火の粉 流れる涙♪

ボケとツッコミが成り立つならば♪

銀河の彼方 惑星ワラワスへ♪

レコード携え 全てを勝ち取れ

ああ 青き空よ 遥かその先の海よ♪

愛のため旅立て 宇宙戦艦テルラ♪



 ……無限に広がる大宇宙……ただただ無音と光の明滅で満たされた世界。今この時も、どこかで星が生まれ、そして死んでいる。138億年にも及ぶ、気の遠くなるような営みの中、天の川銀河の外縁……オリオン腕の太陽系……その第三惑星において発生したある事件をご存じだろうか?

 2103年、外宇宙からやってきた友好的な隣人、ワラワス人にとって”ダジャレ”とは最高軍事機密であった。それを気軽に尋ねてしまったために交戦状態に陥った地球であったが、地球にはまだ対ダジャレ兵器など存在しなかった。日本中のオヤジ、英国紳士、そして物理学者達はその協力の末に、人類史上最初となるダジャレ兵器を恒星間航行用の宇宙船に搭載した。宇宙戦艦テルラ。その艦は、人類の希望を背負って発進した。


 罵倒砲。その威力はすさまじく、ワラワスの宇宙戦艦はすぐに拍手に包まれていった。しかし、艦長の秋田はこれを快く思っていなかった。


「確かにこれを使えば我々が負けることは無いかもしれない。だが、我々は笑いさえ取れればよかったはずだ。このように抗議が届いたとあっては、我々は”禁じ手”を手にしてしまったのかもしれない……」


 罵倒砲はその原理上、射線上に展開された回廊に国境を生じさせ、そこに発生した階級制度、人種問題、性的嗜好、そしてナンセンスなシュールを圧縮、その反動で放射するものだが、秋田艦長の懸念通り、その乱用には「いつしか陳腐になる」という危険が付きまとっていた……


「ここぞという時にだけ撃つ」


 乗組員のその謙虚な心構えもあってかギャグは爆受け、テルラは順調に各地のサービスエリアで漫才CDを売り上げ、遂にワラワス本星での講演権を獲得するのだった。


 しかし、ワラワス帝国総統アセルト・アラブルケツデルガーは堅物な男で、ちょっとやそっとのギャグでは笑わない男であった。

 とりあえずの挨拶として「どうかお許しを、風邪をひいているのです」という体でレスラーマスクを被ったプロフィールを向こうに送信するもアセルトは眉一つひそめず、逆に送ったニキビだらけのー画像で多くのテルラ乗組員が腹を抱えてしまうことに。

 その混乱に乗じ、白兵戦を仕掛けてきたアセルト親衛隊と艦内で激しい闘論を繰り広げたテルラ乗組員であったが、ついに艦長は自沈を決意する。

 その必殺ギャグは瞬く間に艦内を駆け巡り、全ての乗組員の地元に引っ掛けた軽口……すなわち自虐ギャグとなってアセルト親衛隊に襲い掛かった。


 まだ一度も使わず温存してきたのが功を奏したのか、自虐ネタはアセルト総統にクリティカルヒット、腹部を手で押さえてヨロヨロと撤退していったのであった。


 この後、和平条約が締結されることとなり、国家間での交流もスタート、宇宙に平和が訪れた。しかし、布団が吹っ飛んだで笑っているのほほんとした地球に新たなる危機が秘かに迫っていた……。


 あん肝星団帝国。単為生殖の食肉である彼らは、その非常に進んだ化学力と軍事力を以てして星々を侵略、肉食中心の文化へと作り変えているのであった。


「なんであん肝が食肉の代表面してるんだ」「もうランチョンミートばっかりは嫌」と原住民の反抗が起こるとたちまち、軍隊により制圧。その恐怖がまた支配を盤石なものにしていた。

一方その頃、(ミルキーウェイなので)天の川銀河に派遣された乳製品の大艦隊は、風呂上がりのチビチビ飲む牛乳に一息付きながら太陽系へと進軍していた。地球で新たな労働力を奪取するために……


 北の島国のとある丘、スコッツウォルズのあるところに、おじいさんとおばあさんと運輸省職員ジョン・スミスが住んでいました。


 仕事ついでにお茶をいただいていたジョンは「スコーンを切らした」といって犬小屋に帰宅。柴刈りと市長選を終え、やや疲れ気味の御老体二人の元に、突然の危機が襲来!宇宙からやってきた人食いプリンが遂に里までやってきたのであった!

おじいさんは叫びました。「杏仁豆腐の怪物だ!」


 甘い匂いと共に老夫婦に襲い掛かる巨大プリン!そこへ颯爽と現れたのは、ついさっきまで資格勉強に邁進していたジョン・スミスでした。

 ジョン・スミスは叫びました。「杏仁豆腐の怪物だ!」


 おばあさんとおじいさんからプリンを引き剝がす事には成功しますが、しかし、プリンのぬらりとした動きに翻弄されるジョン・スミス!移動跡に残る粘液にジョンの足を絡めるプリンであったが、実はこのような事態に備え、ジョンはおじいさんより秘密兵器をもらっていました。古代アングロサクソン語で『木片』……その名もスプーン。

約10cmのリーチの差を活かし、ジョン・スミスはついに勝利を掴んだのであった!

やはり人食いプリンはプリン食い人には勝てないのだ。

 

 一方……日本には杏仁豆腐、ドイツにはババロア、イタリアにはパンナコッタ、スコットランドにはブランマンジェが迫る中、ジョン・スミスの勤め先、運輸省にプリンバケツ型宇宙船が迫っていることを、ジョン・スミスにはまだ知る由も無かった……

 その時、プリンバケツ母艦からプリンの降下先兵が降り注ぎ、ある目的のために国交省を占拠しようとする。国交省が行っている『オバサン専用道路計画』の白紙化。プリンを作れるオバサンの外出を妨げ、編み物に興じているうちにグランドマザー・シップに拉致する、それがプリン達の真の狙いであった。

 しかし国交省の入り口は計画第一弾としてオバサン専用道路化されており、プリンたちはオバサン達に轢かれてしまう。


 「ちょいとお退きよ」


 しかたなく正面玄関ではなく屋上から侵入しようとするも屋上庭園でゲートボールを楽しんでいるオバサン達が。オバサンに万が一があっては困るため、さらに妥協し、プリン達の長、プリンシパルは通信で中央との交渉を試みた。


《ヴァレプァレハ遥カ遠ク、アン肝星団ヨリジャッテピタ……ソナタ達ヴォソノ技術ヴァ我々ノパメニ役立プェラレルベキペアル。シプァシ貴方達ハゲートプォールヲシペイプァ。ソノタメヤッテキタ……》


「なんて言ってるかよくわからないわね」


「フレッチャー大佐夫人!言語学者のキンバリー夫人を呼んできて!」


「ダニエル!テレビ電話で変な画像を出すのは止めてって言ったでしょう!これで3回目よ。しかもプリンだなんて」


「フローレンス准将夫人の訛りにちょっと似てない?」


「ゲートボールって聞こえたわ」


「ええ、聞こえたわ」


「私なんて息子のアソコの中に小石が入った時もず~~っと不安だったし……」


「ゲートボールをしてたから来たって言ってたわね」


「ええ、ええ、聞こえたわ」


「きっと混ざりに来たのよ」


「国交省の屋上にいるマクドナルド課長夫人にお誘いするよう伝えて!」


とまれかうまれ誤解の果てにプリンも一緒になってゲートボールをすることに。かくして宇宙に平和が訪れた……。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「見終わりましたね」


 それでは、閑話休題。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る