第R話『間隙でございます。お嬢様』
しかし、もうパパはいなくて、幼い時の記憶で何を言われたのかは薄ぼんやりと覚えていても顔は思い出せないというのは中々に寂しいことでは無くって?
「左様でございますか……日頃よりお写真をご覧になられてるはずでは?」
されども自分の隣にいたという実感は限りなく薄い。
「左様でございますか」
というわけでこの図書館だ! C&S財団が運営するこの大図書館は今年で開館120年になりその蔵書数は500万冊と周辺地域では最大規模!500万冊のコピーが誰でも閲覧可能! 更に歴史資料やサブカルチャーに関連する映像資料も視聴覚室で利用可能なのです!
「流石ですセリーヌお坊ちゃま。公式ホームページの紹介文を全て暗記なさるとは」
造作もないことよ。
「ご立派になられて」
大学にも通っているインテリア原チャリとしても、お勉強は欠かせないわ。
「車庫のことでございますか?」
はんなりダンサー、だったかしら。はて。
「インテリゲンチャですね」
そしてこの、会長だけが入れるプライベートルームで普段通り騒ぎながらパパ上に関する資料を漁りまくるのよ。メイドたちと主に。
[[[[[[[[[[[[今日も一日ハリキリムシ!]]]]]]]]]]]]
本当に何でもあるわね。このGENESISっていう本とか絶対に重要アイテムよ。
「ところで、机上に積まれているアニメビデオはいったいなんでございましょうか?」
不朽の名作『宇宙戦艦テルラ』よ。最近リメイクもされた。
「そうではなく」
初代、2、3、NewJourny、完結編まで
「そうでもなく」
[復活編もあった方が良い?]
すわ休憩となれば見ようと持ってきてしまったの。いざ行けテルラ! 外宇宙からの侵略者、あん肝星団帝国を打ち砕け!
「休みつつ見るには適してないように思えてなりません。ちゃんとメリハリつけまされますよう」
閑話休題
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「1871年、先々代の更に先代、ノウェアー・レイノルズはその時代としては極めて画期的なガソリン自動車を開発なさいました」
内燃機関の
「左様でございます。当時としては極めて進歩的、後世から見て歴史的にも」
はて
「であるにもかかわらず会社の経営は火の車に」
内燃機関の?
「ではございませんが、大友ビルにて開発されたそのオートモービルはなんと車輪の無い車でありました。1ミリたりとも前進しないが揺れによりキッチリ酔うというその代物は先々代のオモシロ精神による賜物でございます」
はあ。
「何が悪かったのか歴史には一文たりとも残っておりません」
しかし、意味が無いからと言って価値も無いとはとても言い切れないわ。
「立派な心掛けでございます。同様に先々代は思いつきとその類稀なる比類なき行動力を以て様々な物品をお作りになられました」
思うに、テクノロジーには遊びが必要なのよ。二つの意味で。
「だじゃれに長けた機械人形の構想もすでにこの時あったとか。しかし機械計算機でオモシロワードの選出ならびに重複発音検索を行うには技術的な懸念点がございました」
そしてついに先日。見事なことだわ。
[[[[[[[[[[[[フフーン!]]]]]]]]]]]]
「しかしその車輪の無い車、100年後に判明したことでありますが、なんとその本物となんら違わない乗り心地のために、めしいておられる方が無走車に乗られました際、実際に走行していると誤認されまして。その様子を走査していた機器類がその場に空間歪曲波を検知いたしました」
つまり?
「その方が持つ”実際に走っている”という主観から並行世界が発生致しました」
たまげてしまったわ。
「この技術並びに発生器の類、”ユメリアル・ビークル”と名付けられたお隣世界生成機は、わが財団で使用されて、様々な事々に役立てられております。それはもうこっそりひっそりと」
禁断の果実よね。
「……ではなく、走らない車で作れたとは公表しにくいので……」
分かるわ。
「この発明を受け、先々代は物理学分野にも進出なさいます。量子力学、シミュレーション仮説、実験結果は旦那様を探求へと駆り立てました。この研究はお坊ちゃまの御父上、ニコラ様にも受け継がれました」
シミュレーション仮説。
「無走車はあまりにもリアルな”虚像”から世界をもう一度作った。となれば、現実と夢想の違いはどこにあるのか?」
想えば叶う。夢と現の間には何も違いは無いわ。蛇口と蛇足が対義語であるように!
「だいぶ遠いようですが……」
月とすっぽんぽんだったかしら……
「すっぽんぽん?」
時に、おじいちゃんはその後どうなったの。
「研究の資金源とするためにも、会社の方を拡大なさいました。今年で創設100周年、C&S財団の誕生でございます」
おおおおおおおおお!!!!!!!!!
「……今までにない興奮っぷりでございますね」
今までになく興奮してしまったわ。
「そして旦那様のもとにはある三人の技術者が集まり、現在の各部門の統括をしております。ワイル・ミグウィットもその一人です」
ツインベッドの技術顧問ね?
「スキンヘッド」
今が36歳だから当時は……ちょっと待ちなさい。
「はい」
彼ってそんなに歳なの。100年前よ?
「あ」
♐[あっちゃ~~……]
♋[やっちまったなぁ]
♑[でもハゲてますし……?]
♋[スキンヘッドだって言ってんべな]
「ミスしたからって続々と騒ぐな!」
ごまかしたわね。
「申し訳ございません」
いいのよ、薄々分かっているもの。その日が来るまで、ボクには秘密にしていることがいっぱいあるのね?
「お嬢様、今日をその日にいたします」
ユニヴェルス!?
♐[良いのですか]
「お話致しましょう。世界の仕組みを。歴史の夢を」
「世の中には、人間ではない者が、社会に混じって暮らしているのです。彼らは人間よりも長寿のため、常識的に寿命であるような時期になると名前を変えてるのです」
♏[前の名前は事故死という体になります]
驚いたわ。通りで63歳の割に若く見えると思った。
「何歳に見えますか?」
62歳に見えるわ。
「……そうですか」
スキンヘッドの技術顧問の彼もそうなのね。
「そして私の本名、ウォルラス・ユニヴェルスは偽名でございました。本当の名は、ノウェアー・レイノルズと申します」
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