第L話『複線の交わるところに』
「お疲れさまでしたお嬢様。今回の定例会議は随分と長うございましたね。その長さたるや、尺稼ぎがあまりにも非道いテレビ番組のまたあまりにも非道く小刻みに挿入されるコーマシャル、もしくは……」
もしくは?
「もしくは、劇場か劇場でないかを問わず、映画の冒頭の更に先に挿入される映画広告の数々と、頭部がビデオカメラとパトランプになっている男達の寸劇、それらの合計時間のよう」
ご両親はアドバタイズメントの毒牙にかかったとか?
「いえ、両親はいまだ健在でございます。お嬢様」
ボクはお嬢様ではないわ。あなたと同じ共同議長。しかもそんなお嬢様のようなフワフワしたものではなくまだカチカチのレンガみたいな……
「いまだ建材、でございますね?」
積むものも積めて無いのよ。
「御心配には及びません。第15代会長たるお嬢様には優秀な執事がございます」
執事じゃなくて共同会長兼秘書。どうしてそこまで固執する?この、言わば宮殿ごっこに。
「歩きながらお話ししましょう。お嬢と執事の対話という形式、実に面白そうではありませんか。執事とお嬢ではもちろんお嬢の方が高貴なる立場におられますが、一方で執事がその若いお嬢をたしなめることも時としてある……その立場上どちらがツッコミでどちらがボケなのか?なかなかはっきりしないそのあやふやさたるや、まるで皿に何も載せていないときの平行な天秤の如くに!」
別にお坊ちゃまでも同じ事じゃない。
「そこを言うのは野暮でございます」
もしかして変なアニメにハマったとか?
「御明察です。アニメのサブスクリプションサービスに加入したら最後、アホほど夜更かししてアニメを見まくってしまうという……」
その結果、口調もアニメの執事っぽく。
「なってしまったのでございます」
なってしまったのね! そうそれはこのボクも同じく。
「お嬢様も、でありますか?」
アニメのサブスクリプションサービスに加入して、アホほど夜更かししてアニメをチョー見まくってしまったのよ! その結果口調もアニメのお嬢様っぽく
「なってしまったのでございますね」
職員達からスンゲー変な目で見られるわ。
「変な耳でも聞かれております」
『お嬢様』はやめるべきよ。一番目立つし。
「一番に耳立ちますね」
ではどうするか。
「どうお呼び致しましょうか?」
会長……は可愛くないわね
「では『お坊ちゃま』とお呼び致しましょう」
これからボクのことはお坊ちゃまとお呼びなさい。
「かしこまりました」
ボクはどこを直しましょう。
「お言葉ですがお坊ちゃま。お坊ちゃまは以前よりそんな口調でございます。それはもう事もなげに、遥か前より」
なんと!
「一人称はボクであり、やや高飛車な風に「○○ですわ」と、それが年がら年中365日のおじょ……お坊ちゃまでございます」
残念ながらボクのこの口調は関西弁なんだわ! と言ったら驚くかしら。
「驚きました。その嘘の余りの下手さに」
どうよどうよ。これがアハ体験だわ。しゃあけど、段々と関西弁に見えてきたに違いないわ!
「聞いているのに?」
見分けが付くわけがないやねん。
「そろそろ苦情が入りそうです。本場の人たちからの」
小麦粉を用いた諸々も愛らしく、日々好んでいただいたりするわ
「ペペロンチーノでございますね」
そう……いや、違うわよ。おうどんですわ。
「お坊ちゃまは小さな時からパスタ類を大層好まれており、特に亡き旦那様がお作りになられたペペロンチーノ」
おうどんよ。それに豚まん、お好み焼き……それにタコ足など。
「小麦粉はどちらに」
小麦畑で捕まえて。
「……お坊ちゃまは小さいときから柔らかいものを大層好んでおいででおりました。その口調も高貴かつなによりも柔らかいから好まれているのでは?」
小麦粉を用いた諸々も柔らかくて愛らしく、幼少の頃よりよく嗜んでいたりしたものよ。
「パンでございますね」
アンパン、食パン、アルセーヌ・リュパン、コテンパン。
「モーリス・ルブラン、でしょうか?」
フランスパン!
「フランス人でございます」
リュパンとの戦いは長きに渡ったというわ……その長さなんと50年。
「ロングスパンでございますね」
時に、ついにあれが完成したと聞いたが。
「給仕ロボの件でございますね?ご案内いたしましょう」
いざ行かん、地下工廠へ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「足元にお気を付けください。地下層へ参るにはこちら86000段に及ぶ螺旋階段を」
気が遠くなりそうね。
「降りる必要は無く、こちらのエレベーターでひとっ飛びでございます」
いよっ、C&S財団製高速エレベーター BABEL-3000!
「ではなく、下位互換のBABEL-2000でございます」
平均して0.5秒遅い。
「どんぐりの身体測定でございますね」
などと言ってる間に到着したわ。
「いけません!足元にお気を付けくださいお嬢様。」
スキマが開いていて危険なのね。分かったわ。
「エレベーターと通路との間隙が全く無いにも関わらず、先日『長老』が転倒されました。何か廊下にあるのではないかという未知の要因が予想されます」
私も老化が原因だと思うわ。
「左様でございましょう」
長老の一日も早い回復を祈ると伝えておいて頂戴。
「かしこまりました」
先を急ぎましょう。
「お坊ちゃまは件の給仕ロボについてどのくらいご存じでしょうか」
既にロールアウトされている11機にはもちろん日々世話になっているけど、今回の12番機についてはちっとも知らないわ
「そんなお坊ちゃまのためにクイズ!びた一文!」
第一問?
「汎用給仕兵ZODIACUSはこの度の12番機で製造計画は終了である。〇か×か?」
悩ましいわね
「さあなんでございましょう」
〇かしら
「ドーナツに似てるからでございましょうか?」
ボクがなんでも小麦粉でモノを選ぶと思わないで頂戴
「申し訳ございません」
それで?正解なの。
「残念ながら正解は×でございます」
なんと。
「わが社の技術顧問ワイル・ミグウィットを覚えてございますでしょうか」
ああ、あの若ハゲの。
「スキンヘッドでございます。彼が申しあげますには、幻の0番機もしくは予備の13番機を作った方が燃えるシチュエーションだし何となく良いんじゃね?と」
それな。
「しかし結局この計画は凍結されることになります」
それまたなぜ。
「至極単純。そしてきっと人類ならだれもが納得してくれる理由でございます」
アイスの当たり棒を予算として運営していたとか?
「曰く、やっぱ12って数、割り切れやすくてキモチよくね?」
確かに……
「そんなわけで到着いたしました。こちらにおわしますのが12番機でございます」
ほほう……これはこれは!
「お気に召されましたか?」
なんとも可愛らしい!!……でもイマイチ違いがよく分からないわね。
「これを見た誰もがそう思っておりましょう」
解説なさい。
「この度完成の運びとなりましたZODIACUS-12 Sagittarii(サジタリー)はやや天パ気味で11番機スコルピよりも2cmほど高身長に設定されており、全体的に大人な感じに仕上がっております。右腕部に内蔵されましたスモークジスチャージャーは固体充填型となり使用時間の大幅な延長に成功。左腕部内臓の通電ネット射出装置も諸々の効率化により節電に成功いたしました」
と、申されましても。
「衣装もエプロンではなくバトラー服の男装でカッコよく仕上がっております」
最高ね!
「髪型もさっぱりショートヘア」
ベリークール!!
「では何故見分けが付かなかったのか?」
部屋が真っ暗だからだわ。
「パチリ。と、今照明をお付けいたしました」
なぜ付けなかったのかしら?
「そうと申し上げなければ照明がついていようといまいとそこには何の違いも無いからでございます」
よく分からないわね。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「時に、12体揃ったことで遂に完成となった機能があるのをご存じでしょうか?」
当然存じ上げないわ。
「12体必要な機能なので他11体召喚しておきました」
気が利くわね。
「メイドロボお馴染み、超オーソドックス機能『挨拶』ですが」
[[[[[[[[[[[[おはようございます セリーヌお坊ちゃま]]]]]]]]]]]]
「これが通常版。既になんとも見事なコーラスにより爽やかな朝を実現しておりますがしかし!12体同期によって」
[おはようございます セリーヌお坊ちゃま]
[おはようございます セリーヌお坊ちゃま]
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[おはようございます セリーヌお坊ちゃま]
[おはようございます セリーヌお坊ちゃま]
「このように『尺稼ぎモード』が実行可能に!」
誰が何のためにこんなことを?
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