第6話 鳩時計の廃墟 後編
「これって・・・・」
「御札だな・・・」
床に落ちた黄ばんで薄っぺらいお札を見ると、なにやら文字と図形?のような物が書かれていて上の部分が少し破れている。
ふと、視線が鳩時計がついていた壁に向かう――そこには五寸釘が斜め四十五度くらにの角度で刺さっており、篤が手に持っている鳩時計の裏をみると5センチくらいの穴が円形状に空いていた。
恐らく当初この鳩時計は裏の穴に五寸釘を引っ掛けるような形で止まっていたのだろう。そして五寸釘にはこの御札が打ち付けられていて、篤が鳩時計を外した際にぶつかったのかは分からないが、そのせいで御札が外れたのだろうと推測出来た。
「場所が場所だけにこんなのがあると不気味だな・・・」
「とりあえず御札と鳩時計を戻した方が良いな」
釘は半分程壁に刺さっていて、手で抜こうとしても抜けなかったので意味があるかどうか分からなかったが、とりあえず鳩時計の穴に御札を入れて壁に戻す。
「もう十分だろ。帰るぞ」
「まだ何か起こったわけじゃないんだからさ、もう少しだけ居ようぜ。な?」
ここで言い合いをしていても篤が引くことは絶対にない為、軽いため息を吐きながら了承した――これが後に間違いだった事に気付く。
この時、無理矢理にでも篤を説得してすぐにこの家から離れるべきだったと千春は後悔することになる。
どの位の時間が経っただろうか・・・十分程度のような気もしたし一時間だったようにも思える。
鳩時計の部屋以外にも台所も見たがやはり他の部屋と変わらず物は残っていなかった。
この家にの一階も散策し終えたし、鳩時計と御札以外これと言って特になにもないし、何も起こらないので帰ろうと篤と話していた時だった。
二階からギィィィッ—―と何かを動かすような音が微かに聞こえてきた。
篤もそれが聞こえたようでお互い黙ったまま目を合わせる。
ギィィィッ――――ギィッ―――ギィィィッ――
この家には二階があったことは外観からも分かっていたし、玄関を開けてすぐ目の前に階段があった事も確認している。
ただ、階段は朽ちていて上っていけるような状態ではなかったから二階に上がることを断念していた。
実際に二階がどういう風な構造になっているかは分からないが、千春には二階から今も響いてくる音が引き戸を開けているような音に聞こえた。
「おい・・・逃げるぞ」
「家鳴りかなんかだろ?大丈夫だって」
俺はなぜか小声で篤に話しかけたが、大丈夫と言っている篤も小声で話してる事から、本人も家鳴りではないと思っている事が分かる。
「・・・お前が残りたいなら別にいいよ。ただ俺はもう帰る」
「んー・・・じゃあさ、玄関の前から階段が見えるだろ?そこから二階を覗いてなんかあったら逃げればいいんじゃね?」
一人でこの家に残るのは怖い――かと言って、この二階から鳴り響く音の正体も気になる。これは篤なりの譲歩だったと思う。
こんな会話をしている間も音は断続的に鳴り響いており、千春たちはゆっくりと音をたてないように玄関に向かった。
玄関からいつでも逃げれる準備をしている千春とは対照的に、篤は階段のすぐ下から二階を覗いている。
まだ鳴り響いている音に、もしかしたら風とかで音がなっているかもと思い始めた時、ピタリと音が止んだ。
家の中は静寂で包まれる。
「やっぱり風とかそんなんで音がなってただけじゃね?」
そう言いながら篤は千春の方を振り向いた。
だが千春は篤の問いに返答する事が出来なかった。
ぺた―――ぺた――ぺた―――
裸足で床を歩いた時のような音が2階から聞こえてくる。篤にその音が聞こえていないのか、「どうした?」と呑気な事を言っている。
玄関からは一階の天井が邪魔をして階段の半分くらいまでしか見えないが、階段を凝視していた。
千春の様子が変な事を不信に思った篤が玄関に来ようとした瞬間、階段から降りてくる足が見えた。
それを見て千春は篤を置いてすぐに走って逃げた。
後ろからは篤の「おいッ!!」といった声の後に家の中から何かが落ちる音が聞こえてきた。その音がなんなのか確認する余裕が、千春にはなくて急いでその場から離れた。
自転車を置いている所まで来て少し冷静になった千春は、篤の事を置いて逃げてしまった事に気付き、篤の事を迎えに行った。
篤も家から脱出したようで、斜面の途中で千春の姿をみるなり顔を真っ青にして、
「ここから離れるぞ」と一言だけ言った。
自転車に乗り十分に離れたコンビニの駐車場で、千春が逃げた後の事を話してくれた。
篤は千春が逃げた後、床を踏み外し転んだらしく、よく見ると確かに服なんかも汚れていた。
その後急いで玄関から出て家の方を振り返ったけどそこには何もいなくて、この時、千春にハメられたと思ったそうだ。
ただ、千春が聞こえた何かが落ちる音を篤も聞こえてて、その音がした場所に行ってみるとどうやら鳩時計の部屋だった。
窓から篤が中を覗くと、壁に掛けなおしたはずの鳩時計が床に落ちて壊れていたという。釘は壁にしっかりと刺さっていたという。
「俺ちゃんと鳩時計戻したよな?」
「・・・あぁ」
千春も篤が壁に掛けなおしているのを確認していた。壁から出ている釘の長さから考えても、例え篤が転んだとしても鳩時計が壁から外れるという事はないだろう。
誰かが持ち上げて床に落とさない限り・・・
世の中には有名になっていない心霊スポットも存在する事をこの時実際に体験したのだった。
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