最終話 廃ラブホテル 前編
「睨むなって!今となってはいい思い出じゃん」
「あれの何処が良い思い出なんだ?一回篤の頭の中を見てみたいわ」
「あはは…千春は辞める事伝えた後の店長の言葉覚えてる?」
「露骨に話題を反らすなよ。『女は中に入ってきたか?』だろ?」
「意味深だよな…入ってきたらやっぱり不味いのかな?」
「どうだろうな…今となってはもうコンビニすらないからな」
「知らない事の方が良い事もあるかもな」
「篤からそんな言葉が聞ける時が来るとはな。やっぱりあの事が原因か?」
「…まあ、反省はしてる」
◇
大学もなんとか無事に卒業出来た俺達は、お互い別々の企業に就職していた。
お互い仕事を始めてからは忙しくて、以前のように心霊スポットに行くことは無くなり、たまに連絡を取り合う程度になった。
仕事を始めてから、半年くらい経った頃だったと思う。次の日が休みという事もあり会社の飲み会で朝まで飲んでいた俺は、昼頃にスマホの着信で目を覚ます。
「はい…」
「よおッ!久しぶり。元気してた?」
「声がでかい…なんか用か?」
「テンション低ッ!まぁな…少し千春に相談があってさ。今からファミレス来れない?」
「…分かった。すぐ行く」
なんだかいつもと様子が違う篤が心配になったから、すぐに準備をしてファミレスに向かう事にした――
「いきなり呼び出して悪い。ちょっと相談があるんだよ」
「どうした?」
「俺達、いつから心霊スポットに行ってない?」
「…帰るわ」
「ちょッ!待て待てッ!人の話は最後まで聞こうな?」
どうやら篤は社会人になってから、相当ストレスが溜まっているようで上司の文句を言っていた。
「だからさ、ちょーっとストレスを発散したくてさ」
「…心霊スポットに行きたいと?」
「そうなんですよ。久々にさ県外に旅行しようぜ?」
来週の休日に、旅行という名の心霊スポットに行くことを約束し、その日は別れた。
◇
休日になり篤が俺のアパートに車で迎えに来た。そういえば何処に行くかを聞いてないなと思ったので篤に聞いてみると、
「言ってなかったか?東北の〇〇県に向かう」
「はぁ!?」
「俺が運転するから大丈夫だって!」
「そういう問題じゃねぇよ…」
篤にちゃんと聞いてなかった俺も悪かったから改めて聞いてみると、ラブホテルに行くのだそうだ。
「俺と篤で?」
「そうそう」
「確認するけど”廃”ラブホテルだよな?」
「いや?営業中だけど?」
「頼む…下ろしてくれ。俺にそんな趣味はない」
「冗談だって!間に受けんなよ。廃ラブホテルに行くの」
冗談だった事に胸をなでおろしつつ、話を聞いてみるとその廃ラブホテルは数年前までは営業をしていたらしい。
「つまり廃業せざるを得ない理由があったと?」
「殺人事件があったんだって。結構ニュースで騒がれたらしくてさ…ほらこれ」
篤はスマホで当時の記事を俺に見せてきた。内容としては恋愛のいざこざが原因で、男性が女性を刺殺だそうで、男は逮捕済みだそうだ。
「…悪ふざけで行かない方がいいんじゃないか?」
「今までだってそういう場所に行ってきたけど、なんもなかったじゃん。千春が行きたくないなら車で待っててもいいぞ?」
「…俺の言う事は絶対に聞くこと。それが付いてく条件だ」
「OK!!やっぱり持つべきものは友だな!」
◇
途中で休憩しながらもなんとか目的の場所に着くことができたが、もう夜の22時を過ぎていた。
建物の周りは森に囲まれているので、ライトがなければ歩くことすら厳しかった。俺達はライトを持っていたが、その辺のホームセンターで買った安物のライトだ。当然光量には期待できない。
田舎のラブホテルの形状は2種類に分けられると思う。ビジネスホテルの様に隣に部屋が存在するタイプと一軒家の様に完全孤立タイプ。
今回行った廃ラブホテルは後者である一軒家タイプだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます