第7話 コンビニの女 前編

「鳩時計の廃墟…懐かしいな。あの後、篤が落ち着くまでコンビニの駐車場に居たもんな」


「いつまでも居る俺達に、コンビニの店員のお兄さんが温かい缶コーヒー奢ってくれて話も聞いてくれたな…。それ以外でもあのコンビニは、ある意味忘れられないコンビニだもんな」


「…やめろよ。思い出したじゃねぇか」


 ◇


 俺と篤は地元の大学に進学してからも心霊スポット巡りを続け、車の免許を取得してさらに遠出もしていた。しかしその日、篤がにやにやしながら話しかけてきたのだ。


「千春。面白い――良いバイト先が見つかったかもしれん」

「…なんで言い直すんだよ」


 高校からの付き合いだが千春は察した…篤がこんな時は大体ろくでもない事を言ってくるんだろうな、と。


「まあそこは気にすんなよ。ででーん!」

「チラシ?…コンビニの求人かよ。それがどうしたんだ?」


『夜勤限定のシフトに入れる方募集中!!』


 そんな事がでかでかと書いてあった。

 時給を見ると確かに他のコンビニより時給が高い。


「千春がもしコンビニを建てる時はどんな場所に建てたい?」

「はぁ?いきなりなんだよ。…そりゃ立地が良い場所と客が集まる場所に建てたい」

 唐突な篤の質問に、少し考えた後に答える。



「だよな。なんか気付く事ないか?」


 そう言われて求人をよく見てみると、千春たちが以前に訪れた鳩時計の廃墟の後に寄ったコンビニだった。


「あれ?あそこのコンビニって、この会社が経営してたか?」

「いんや?今は別のコンビニになってる」

「いや、あそこって場所もいいし、客だって入ってただろう?それがこの数年で潰れて、しかも別のコンビニになってる?」

 怪訝な表情で話す千春。



「千春もおかしいと思うだろ?って偉そうに言ったけどさ、実はそのコンビニで働いてた先輩に聞いた話なんだけどさ、どうやら色々起こるらしいんだよ」

「怪奇現象って事?」

「そうそう!詳しくは怖がって教えてくれなかったんだけどさ、ちょっと調べたらこの求人を見つけてなにやらきな臭いと思ってな」

「御断りします」

「まだ何も言ってないだろ!?一緒にバイトしようぜ!!」



 まあ、お察しだと思うが千春はしつこい篤と一緒にバイトの面接に行くことになってしまう。そしていざ面接に行くとあっさりその場で合格。しかも篤と一緒のシフトにしてくれる好待遇。


 怪しむ千春に対し、店長は「夜勤は危ないから基本二人で仕事をしてもらってる」と言っていたが、都会ならまだしもこんな田舎のコンビニで、夜二人で働いているコンビニなんて見たことない。


「やっぱり少し店長の様子がおかしかったよな?」

「何かを隠してる感じはしたかな」

「ははっ。まあ、明日から楽しくバイトしようぜ!」


 ◇



 次の日からバイト先のコンビニで作業などを教わり、何事もなく一週間が過ぎた。


「もっとなんか起こるかなとか、期待してたけどなんも起こらないな…」

「俺は何事もない方がいいけどな。時給も良いし、夜中はそこまで客はこないし二人で品出しなんかをやればすぐ終わるからな」

 欠伸をしながら話す。


「そうなんだけどさ…俺は刺激が欲しいお年頃なの!」

「勝手に言ってろ」


 暑苦しい篤を一喝し、時計を見ると午前三時――バイト終了まで後四時間もある。


「冗談はここまでにして、明日から2人だけじゃん?何か起こるとしたら明日からじゃね?千春はなんか感じたか?」

「…いや?」

「その間はなんだよ!なんか見たのか!?」


 興奮気味に聞いてくる篤を、なんとか誤魔化してその日は帰宅した――




 千春は初めて幽霊を視た時からずっと思っていた事がある。人には視えないのに自分にだけ視える人――丁度、思春期も重なっていた事もあり、自分は頭がおかしくなったんじゃないかと本気で悩んでた時期があった。


 自身が元々幽霊否定派だった。過去の自分に幽霊が視えるなんて言ったら、鼻で笑われて終わりだ。


 そんな時に出会ったのが篤だった。


 篤は千春の事を馬鹿にせずに、目を輝かせて話を聞いてくれた。どれだけ当時の千春が救われた事か…感謝してもしきれない。だからこそ篤に危険な事をさせたくはなかったが、千春が止めても一人で心霊スポットに突撃する事は、分かっていたから今まで一緒に付いて行ってた。


 知ってるか?は視えてる事が分かるとしつこく付き纏ってくるんだ。それに、視えてなくてもあちら側の勘違いで付いてくることもある。


 だから篤に言えないし、言わない。


 コンビニでバイト中、ずっと雑誌コーナーのガラス窓から女がコンビニを覗いてるなんて事を――


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